ジェンダー医療研究会:JEGMA

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未手術での性別記載変更者が大量に出現している件について

 2023年10月に最高裁において性同一性障害特例法における生殖腺要件(生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること)が違憲と判断されました。
 これにより、いわゆる手術要件は外観要件(その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること)のみとなりました。
 従来、FtM(女性から男性へ変わった人)においては、男性ホルモン投与によって肥大した陰核をもって外観要件を満たしたとみなすという慣例があったため、FtMは手術無しで戸籍の性別を変更できることとなりました。
 MtF(男性から女性へ変わった人)については、外観要件が違憲かどうかの審議が高裁に差し戻されたため、その結果を待っている状態です。

 実質的に医師の診断書のみが戸籍上の性別変更の可否を規定する唯一の条件となり、今まで以上に慎重に診断することが求められる状況です。

 そのような状況の中、あるひとつのクリニックの診断により、この半年間で数十人のFtMが手術無しで、子宮と卵巣を温存したまま、戸籍上の性別を男性に変更したことが判明しました。一部は乳腺も温存したまま性別記載変更を行なっており、女性としての臓器を全て保ったまま、男性ホルモンの投与のみで戸籍上の性別が男性になったとのことです。

 日本精神神経学会が発行する『性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第4版)』の中では、「性同一性障害に十分な理解と経験を持つ精神科医が診断にあたることが望ましい」とされていますが、同クリニックの院長は精神科を専門とする医師ではありません。
 また、日本には性同一性障害の専門学会であるGID学会が存在し、そこは十分な専門知識を持った施設や医師に対して認定を与えていますが、問題となっているクリニックはGID学会の認定施設ではありませんし、診断している医師はGID学会認定医でもありません。
 にも関わらず、オンラインによる簡易な診察で戸籍変更のための申立書を作成しています。

 性別変更について、同クリニックでは「1. 性別再変更をしないこと。 2. ホルモン治療を中止して、妊娠分娩しないこと」をローカルルールとして課していますが、これになんら法的拘束力が無い事は説明するまでもありません。
 また「MTFの人の性別変更申し立てについては、現在チャレンジ中です」とも述べています。

 同クリニックで申し立てのための書類を手に入れれば、そこに必要なもう1人の医師のサインについては、連携した別のクリニック(GID学会認定施設ではなく、GID学会認定医もいない)の精神科医がノーチェックですぐに署名するという流れができてしまっており、完全に制度が形骸化しています。
 非専門家2名によって未手術の戸籍変更者が数多く認定されている状態です。
 もしも今後、MtFに対しても手術が不要になれば、同じ流れで「男性器のある女性」が数多く誕生することになるでしょう。

 上記の通り、現在、性同一性障害の診断は極めてハードルが低いものとなっており、医師免許さえあれば誰でも診断書を書くことができ、戸籍の性別記載変更の申立書まで作成することが可能な状態です。そしてそれにより、ひとつのクリニックから半年間で数十人の性別変更者がでています。報道がされていないだけで、全国では何人が戸籍の性別記載を変更しているのか、想像もつきません。

 このままでは、医師という職業の信頼を大きく損ねるような事態になりかねません。

 今以上に適切な診察の上で、更に適切な診断と治療が行われるために、より厳格なルールの制定が必要です。

 そこで我々は以下のことを求めます。

【精神神経学会に対して】  
 ・現在のガイドラインの見直しと診断の厳格化を求めます。

【政府に対して】
 ・診断する医師の資格の整備を求めます。(精神保健指定医と同じ位のハードルを設けるなど。)

 

以上、ジェンダー医療研究