ジェンダー医療研究会:JEGMA

ジェンダー医療研究会は、 ジェンダー肯定医療に関して、エビデンスに基づいた情報を発信します。

キャス博士の報告書:方法論/エビデンスを理解する -47 p.~


方法論

1.1 このレビューは、まず、採用されたアプローチを支える基本原則を確立しました。

  • 児童または若者の福祉は、すべての考慮事項において引き続き最優先されなければなりません。 レビューの中心にあるのは、支援を求めている児童や若者のグループであり、私たちの責任は、彼らの最善の利益を守り、一人一人が個人として成長するのに役立つ道筋を立てるケアのモデルを考案することです。
  • レビューの基礎は、最も強固な既存のエビデンスの徹底的な調査であるべきです。これを裏付けるために、疫学から治療アプローチ、現在の実践の国際モデルまで、さまざまな問題に関するシステマティックレビューを委託しました。
  • 形式的な)エビデンスは全体像の一部でしかなく、それを補完するためにさまざまな人々から話を聞く必要がありました。重要なのは、レビューの中心にいる児童や若者だけでなく、その親や養育者、そして英国でジェンダーケアを経験し、長期的な視点を与えることができる若年成人です。
  • また、関連する経験を持つさまざまな機関の非常に幅広い専門家からのインプットも必要でしたれはこのグループとエビデンスの理解に貢献しました。
  • 最後に、中間調査結果の公開、ブログ、およびレビュー期間中のNHSイングランドとのコミュニケーションを通じて、主要な調査結果ができるだけ早く共有されるようにしたいと考えました。

1.2 委託条件に定められた質問を検討するにあたり、このレビューでは、既知と未知のことを示し、NHSが安全、効果的、思いやりを持ってどのように対応するのが最善かを考えるだけで、いくつかの問題はより広い社会的議論に委ねられています。しかし、できるだけ幅広い理解を得るために、基本的な科学的および臨床的原則に裏打ちされたいくつかの情報源を利用しました。

エビデンスを理解する
1.3 2022年の本レビューの中間報告では、エビデンスに基づくサービス開発の重要性が指摘され、評価と治療への適切なアプローチを含め、ジェンダー不合やジェンダー違和の児童や若者の臨床管理を支えるエビデンス基盤の大きな欠落や弱点が浮き彫りになりました。特に、NHSの支援や治療を受けている児童や若者の中長期的なアウトカムについて、ほとんど知られていないことが明らかになりました。

1.4 ジェンダー不合およびジェンダー違和に対する医療のエビデンス基盤の質は、議論と論争の源になっています。そのため、若者やその家族がどのような情報を信頼すべきか、提供される治療に何を期待すべきかを知ることは非常に困難です。

1.5 臨床医学の基本原則は、治療は入手可能な最良のエビデンスに基づいて提供されるべきであるということです。

1.6 エビデンスに基づく診療では、3つの要因が治療の方針を決定します。研究のエビデンス、臨床的専門知識、および患者の価値観です。

1.7 例えば、医師がうつ病の患者を診断し、特定の抗うつ薬を勧める場合、その薬が有効であるという強力なエビデンスがあることを必ず説明する必要があります。たとえば「この薬がうつ病を改善する確率は85%です」のような説明です。

1.8 医師はまた、起こりうる副作用を指摘します。たとえば「体重増加を引き起こす可能性は5%です」というふうな指摘です。患者がすでに太りすぎについて非常に苦しんでいる場合、薬の潜在的な利益が体重増加のリスクを上回っていないと感じるかもしれません。

1.9 その後、医師は他の選択肢を検討します。たとえば、体重増加を引き起こさないが自殺のリスクを高める別の薬があるかもしれません。患者が最近自殺未遂をした場合、それはこの患者に提供する適切な代替手段ではありません。

1.10 有益性と有害性に関するこのエビデンスがなければ、医師が患者に助言することは困難であり、患者が提案された治療法を試すかどうかを決定することは困難です。

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説明ボックス1:

治療研究の原則

以下の情報は、本レビューの推奨に用いるエビデンスおよび治療研究の長所と限界について、分かりやすい説明を提供することを目的としています。

  • 新薬や治療法の開発には、それが安全であるか(害や副作用は最小限に抑えられているか)そして効果的であるか(薬が意図した利益を生み出す可能性は十分か)を保証するために必要な段階がいくつかあります。その疾患に対して既存の治療法が存在する場合、重要なステップは、新しい治療法が優れているかどうか、および費用対効果が高いかどうかをテストすることです。これは、ランダム化試験を実施することによって最もよく定量化されます。 薬に重篤な副作用がある場合もありますが、生命を脅かす病状であれば、これらの副作用は許容できると考えられます(例えば、がんの化学療法など)。
  • 治験の重要な方針は均衡(equipoise)です。これは、研究者が既存の治療法と新しい治療法のどちらが優れているかの答えを、真に知らないことを意味します。新しい治療法が優れている、あるいは実際に悪いと信じるだけの非常に強い理由がある場合、倫理的に治験を実施することはできません。新しい治療法が有害であるか、または非常に有益であることが明らかになった場合は、治験を早期に中止することがあります。

治療研究の類型

  • 最も良い「ゴールドスタンダード」の臨床試験はランダム化比較試験(RCT)です。このタイプの試験には少なくとも二つのグループを必要とし、第一の集団には新規の治療、第二の対照群には標準治療または代替治療、あるいは無治療によって比較します。患者は 二つのグループにランダムに割り当てられ、二つのグループ間に重要な違いがないことを確認することが重要です。
  • 盲検(ブラインド)または盲検化という用語はRCTで用いられます。盲検化にはさまざまなレベルがあります。第一に、研究者が評価を行う場合、患者がどのグループに割り当てられているかを知るべきではありません。第二に、患者は盲検化され、新規の治療を受けているのか従来の治療を受けているのか、あるいはプラセボ(偽薬)を服用しているのかさえわからないようになっています。最後に、治療を行う医師(またはチーム)は、理想的にはグループ割り振りを知らされず、患者の治療に差が出ないようにする必要があります。
  • 研究の参加者は、治験への参加に同意する際に盲検化プロセスについて説明を受ける必要があります。患者が治療にブラインドになることが不可能な場合もあります。たとえば、鍼治療と理学療法の臨床試験では、患者は自分がどちらの治療を受けているかを知ることができます。また状況によっては、研究結果を解釈する人々はプラセボ効果の可能性を考慮に入れる必要があります。これは、治療が有益な結果をもたらすと信じ、そう信じることで彼らの気分が良くなるときです。

ジェンダー不合/違和に対する内分泌治療を受けている児童および若年者を対象としたRCTはほとんどありませんが、最も一般的に報告されている研究の種類は以下の通りです。

  • 二次性徴抑制剤(思春期ブロッカー)と男性化/女性化ホルモンの効果を調べるために使用される二種類の研究は、コホート研究(cohort studies)と横断的研究(cross-sectional studies)であり、これらは特定の介入を受けたグループと受けなかったグループのアウトカムを見る二つの方法です。これらはすべて観察研究(observational studies)と呼ばれ、RCTは実験的研究(experimental studies)と呼ばれます。これは、コホート研究または横断的研究において、研究者がどの患者に介入を受けるかをランダムに割り当てなかったからです。比較群が存在する可能性がありますが、参加者は二つのグループにランダムに割り当てられていません。
  • 思春期抑制を受けている患者のための最も一般的な研究は、事前事後研究(pre-post study)です。これは、研究参加者が介入を受ける前と後に評価される場所です。治療を受けなかった個人の比較群はなく、治療を行わなかった場合の経時的な変化を除外することはできないため、これらの研究から強力な結論を導き出すことはできません。

治療試験の落とし穴

  • 治験結果を理解する上で大きな問題はバイアス(視点の偏り)です。結果に偏りが生じる可能性はたくさんあります。たとえば、サンプルの 50%が脱落した場合、これは高い脱落率と呼ばれます。研究に残った人は治療によく反応した人であり、脱落した人は治療がうまくいかなかったり、副作用がひどかったりしたために脱落した可能性があります。これにより研究結果に正のバイアスが生じる可能性があります。言い換えれば、効果がないときに効果を示すことです。また、脱落の原因となった副作用も提示できない可能性があります。
  • 結果を偏らせる別の方法は、治療群と対照群の患者が何らかの形で異なる場合です。たとえば、片方のグループに若い人が多かったり病気の人が多かったりなどです。研究者はいくつかの指標でグループを評価し、それらを比較して、研究の開始時にグルーブ同士が類似しているかどうかを確認します (ベースライン評価)。 研究グループを無作為に割り振ることと参加者を多数にすることは、研究グループ間を均等にし上記のリスクを減らすのに役立ちます。
  • 研究の選択基準と除外基準(つまり、どの患者を含めることができ、どの患者を含めることができないか)を明確にすることは非常に重要です。例えば、ある試験で鎮痛剤の効果が高いと報告されても、対象者に変形性膝関節症の人しか含まれていないことが判明した場合、その結果を頭痛の患者に一般化できないことになります。この薬は頭痛に非常によく効くかもしれませんが、この特定の研究の結果に基づいてそれを断言することは不可能です。
  • 患者が盲検化されておらず、特定の薬剤を投与されていることがわかっているデザイン、または無作為化されるのではなく特定の治療法を選択したデザインでは、プラセボ効果(つまり、治療が有益な結果をもたらすと信じている)により、患者は改善を示す可能性があります。
  • 研究には、患者が臨床試験の治療と同時に別の治療を受けるなど、交絡因子がある場合があります。無作為化と盲検化はバイアスと交絡のリスクを最小限に抑えますが、これは完全に入り込まないことは意味しません。
  • また、臨床試験には十分な数の患者が参加し(sufficiently powered十分な力がある、という用語が使われる場合もあります)、結果が起こりうるアウトカムの範囲を反映し、偶然に「陽性」の結果、いわゆる第一種の過誤(またはαエラー)を与えないようにする必要があります。 研究アウトカムの指標は、一般にグループの平均として報告されますが、通常は範囲も示され、非常に広い場合があります。たとえば、グループの平均結果が 10 点満点中 5 点の場合、2 から 9 の範囲は、4 から 6 の範囲よりもグループ全体ではるかに多様な結果を示します。標本サイズは、報告されたアウトカムが統計的に有意であるかどうかに影響します。例えば4人の患者が治療を受け、3人が良くなり1人が悪くなったような非常に小規模な研究では、起こりうる結果の全範囲を理解することは不可能です。さらに、3人の利益は偶然に起こった可能性があります。結果が統計的に有意であるためには、その結果が偶然に発生した可能性が低い必要があります。これが、かなりの数の参加者が必要な理由であり、また研究が有意義な結果を生み出すために必要な人数の事前に見積もることも重要です。
  • 他にも多くの潜在的な問題があり、その中には次のようなものがあります。

- 質問がより好意的な回答を促すように書かれているアンケート設計における無意識のバイアス。

- 利用可能なデータに対して間違った種類の分析を使用する。

- 治療の利益または有害性を完全に理解するのに十分な期間、フォローアップを行わない。 - 患者が時間の経過とともに自発的に改善したのを、治療ゆえの改善と誤解する。

- 例えば、肯定的な結果のみが発表される出版バイアス。 

著者権

Cass Review
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