ジェンダー医療研究会:JEGMA

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ジェンダー肯定医療における精神科の倫理的関与


D-4-003

原文

D’Angelo, R. (2018).
Psychiatry’s ethical involvement in gender-affirming care.
Australasian Psychiatry, 26(5), 460–463.
https://doi.org/10.1177/1039856218775216

抄録

目的

ジェンダー違和(性別違和:Gender Dysphoria)に対する身体的治療の許可を出す精神科の役割について検討すること、およびジェンダー再割り当て(gender-reassignment)に関するエビデンスの質を精査すること。

方法

Medlineにて、「トランスセクシュアリズム(transsexualism)」または「ジェンダー違和(gender dysphoria)」、および「アウトカム(outcome)」または「フォローアップ(follow-up)」を主題としてタイトルに含む論文の検索を行った。2005年以降に発表された論文のうち、心理社会的アウトカムについて報告しているものをレビュー対象として選択した。

結果

ジェンダー再割り当てについて肯定的なアウトカムを報告しているエビデンスで入手可能なもののほとんどは研究の質が低い。信頼できる方法論が用いられた数少ない研究においては、患者のアウトカムが悪く、自殺の危険性があるケースも示唆されている。

結論

本稿の著者は、トランスジェンダー当事者が倫理的な治療を受けられているかについて疑問を呈している。

SEGMによる解説

本稿では、ジェンダー肯定手術の満足度を調べた研究における、患者のドロップアウト率の異常な高さを検証している。こうしたドロップアウト率の高さは、フォローアップ調査への参加を拒否する患者や、治療を担当したジェンダークリニックとの連絡を絶つ患者がいて、そのアウトカムが悪化している可能性を示唆している。つまり、これらの患者のアウトカムを説明できないという状況のために、実際には治療を受けたことを後悔している患者の割合の大きさが覆い隠されている可能性もある。
本稿のポイントは以下の通りである。

  •  Smithらは、ジェンダー肯定手術を受けた成人162人を対象とした研究に基づき、性別再割り当ては有効であると報告している。ただし、対象者全体のうち126人(78%)からしかフォローアップ調査のデータを得られていない。なぜなら多くの対象者が「追跡不能」または海外に転居済みだったためである。
  •  De Cuypereらは、ジェンダー肯定手術はトランスセクシュアルにとって効果的な治療法であると報告している。ただし、1986年から2001年の間にジェンダー肯定手術を受けた107人の患者のうち、30人(28%)は連絡が取れなくなっており、15人(14%)は調査への参加を拒否している。
  •  Johannsonらは、ジェンダー肯定手術の良好なアウトカムを報告している。ジェンダー肯定手術を受けた60人の患者のうち、42人(70%)がフォローアップ調査に参加することに同意した。なお、非参加者のうち、1人はジェンダー肯定手術の合併症の結果として死亡しており、8人は連絡が取れず、9人は調査への参加を拒否している。
  •  Salvadorらは、ジェンダー肯定手術は患者の心理社会的機能にプラスの効果をもたらすと報告している。ただし、69人の患者のうち連絡が取れたのは55人(80%)のみで、結果的に17人がフォローアップ調査から漏れた。
  •  Van de Griftらは、9496%の患者がSRS(性別再割り当て手術)に満足しており、QOLも良好であると報告している。アムステルダム、ハンブルク、ゲントのクリニックでジェンダー肯定手術を受けたジェンダー違和(性別違和)の患者合計546人に対し、オンライン調査に回答してもらうよう連絡した。しかし、実際に調査に回答した患者は201人(37%)のみだった。