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WPATHファイル:WPATHはヒポクラテスの誓いを放棄した/不適切な性ホルモン剤の有害性を示す証拠 - p.22~24

 

WPATHはヒポクラテスの誓いを放棄した
 2,500年以上にわたり、医師はヒポクラテスの誓いに従って「First do no harm:まず害を及ぼすな」ということを教えられてきました。この格言は紀元前5世紀のギリシャの原典には存在しませんが、患者の利益を考慮し「有害なものはどんなものでも成してはいけない」という誓いの包括的なメッセージを要約したものです。

「まず、害を及ぼすな」というフレーズ、またはそのラテン語訳の「Primum non nocere」は、医療倫理基準の基盤であり、何千年もの間、医師に道徳的および倫理的な羅針盤を提供してきました。ヒポクラテスの時代から医学と技術は驚くほど進歩しましたが、宣誓の指針は常に同じままです。医療の利益は常に害を上回らなければなりません。

 いつの時代も、医療従事者はリスクを冒すこと得られる利益と患者の安全のバランスを取ろうとしてきましたが、特にがん治療などのリスクの高い医療分野では、現代でもしばしばそれは難題です。実際、WPATHのジェンダー肯定医療とがん治療を比較することは適切でしょう。どちらのプロトコルも、将来の健康と生殖機能に大きな影響を与える強力な薬剤の使用、および多くの場合、身体の部分の外科的切除を伴うためです。

 しかし、ほとんどの人は、子供や若者ががんに罹患し、その手術が患者の命を救う可能性がある場合、不妊につながる可能性のある化学療法や体の部分の切断などの治療を医師が行うことが正当化されることは納得するでしょうが、ジェンダー違和と呼ばれる定義が不十分な精神障害に苦しむ若者を不妊手術することは、 あるいは体の健康な部分を切断することは、はるかに倫理的に疑わしいことです。

不適切な性ホルモン剤の有害性を示す証拠
 WPATHのメンバーは、患者がジェンダー不合の感情を克服し、出生時の性別と和解するのを助けることは、有害なコンバージョンセラピー(矯正療法)であるという信念を堅持しています(81)。 そのため、有力なトランスジェンダー・ヘルス・グループであるWPATH内の精神・医療専門家は、有害な影響を知りながらも、未成年者や重度の精神疾患者を含む患者に対する最初で唯一の治療として、侵襲的で有害なホルモン治療や外科手術を提唱し続けています。

 WPATHフォーラムでは、生得的女性の性機能に対する異性化ホルモンの影響について多くの議論がありました。また、思春期を経験することを許され、したがってオーガズムに達することができた生得的男性についても同様です。

 例えば、2022年3月24日付けのディスカッションスレッドで臨床看護師が、テストステロンを3年間摂取した後に骨盤内炎症性疾患を発症した「若い患者」について質問しました。この生得的女性の膣は「萎縮しており、その結果、黄色い分泌物が出続けている」と看護師は書いています。膣萎縮は、女性のエストロゲンが少ない場合、通常は閉経後に発生する膣壁の薄化、乾燥、および炎症です。多くの女性にとって、膣の萎縮は性交を苦痛にするだけでなく、不快な尿路症状にもつながります。 

 骨盤内炎症性疾患(PID)は、卵巣や卵管の膿瘍だけでなく、体の他の部分への感染の拡大など、重篤で生命を脅かす可能性のある健康問題につながる深刻な状態です。子宮外妊娠のリスクを大幅に高め、それにより命の危険もあり得ます。同様に、PIDは生殖能力に悪影響を与える可能性があります。PIDが治療されない期間が長ければ長いほど、長期にわたる深刻な健康問題や不妊症になる可能性が高くなり、PID感染が長引くと生殖器官に永久的な瘢痕が残る可能性があります。この症状が続くと子宮摘出術が必要になることさえあります。 

 返信の中で、あるWPATHメンバーは、若い生得的女性が「骨盤底機能障害、さらにはオーガズムに伴う痛み」を発症したという話をしました。トランス自認の生得的女性弁護士で著名なトランスジェンダー活動家は、テストステロンを何年も服用した後、「(膣の)皮膚が裂け、出血し、耐え難い」状態になったという個人的な体験談を共有しました。また、別のトランス自認の生得的女性会員は、「挿入性交後の出血」、痛みを伴うオーガズム、子宮の萎縮を訴えました。

 生得的男性のエストロゲン摂取も、同様の問題があります。ある医師が「ホルモン療法後の勃起時に一部のトランス女性が大きな痛みを経験する理由について、何か洞察があれば」と投稿したところ、それに対する返答はそれが珍しいことではないと示唆していました。

 トランス自認の生得的男性カウンセラーは、エストラジオールを服用中に痛みを伴う勃起を経験したと認め、「このために勃起することを避けようとしている」と述べ、勃起が痛みを伴わない場合でも「身体的に不快で快楽とはいえなかった」と説明しました。また看護師の語った生得的男性患者のエピソードでは、その患者は勃起を「割れたガラスのようだ」と表現しました。

 これが、WPATHが青年期に推奨する治療経路です。これらのやり取りは、ジェンダー肯定医療従事者がそうなることを知りながら、若い患者に性機能を失わせていることを示しています。若くて未経験の彼らはまだ、そのようなセックスの能力が、人と長期的な関係を築く上でどのような意味を持つのか理解できないのに。その喪失がアダルトライフ(成人の生活)にどのような影響を及ぼすのか理解する前に、性的アイデンティティの核心の要素を犠牲にさせられてしまうのです。

 フォーラムに参加した医師たちは、異性化ホルモンが一部の青少年に深刻な悪影響を及ぼすことも発見しました。2021年12月、ある医師は、酢酸ノルエチンドロンを服用して数年間月経を抑制し、テストステロンを1年間服用した後、大きな肝腫瘍を発症した16歳の患者について説明しました。「Pt( = Patient:患者)には、11x11cmと7x7cmの2つの肝腫瘤(肝腺腫)があることが判明し、腫瘍内科医と外科医の両方が、問題となる可能性のある物質はホルモンであると指摘しました」と医師は書いています。

 別の医師はそれに答えて、テストステロンを約8〜10年服用した後、肝癌を発症した生得的女性の同僚についての逸話を披露しました。「私の知る限り、それは彼のホルモン治療に関連していました」と医師は言いましたが、癌が進行し、その同僚が数ヶ月後に亡くなったため、それ以上の詳細は分かりませんでした。。

 テストステロンを服用している生得的女性患者が肝細胞癌を発症するリスクは、以前にも指摘されています。2020年、The Lancet誌は、B型肝炎やC型肝炎感染による肝硬変などの男性や慢性肝疾患の人に最もよく見られる原発性肝癌の最も一般的なタイプである大きな肝細胞癌(HCC)を患う17歳のトランス自認の生得的女性のケーススタディを掲載しました。17歳の彼女は14ヶ月間テストステロンを服用していましたが、彼女のチームは「腫瘍に影響を及ぼす可能性がある」ため、ホルモンの摂取をやめるよう彼女に助言していました。患者の転帰は不明ですが、症例研究は「思春期前後のトランスジェンダー患者における外因性テストステロンとHCCの発症および進行との関係は不明である」と結論付けています(82)。

 研究者はまた、トランス自認の生得的女性における肝臓癌の第二の珍しい症例を明らかにしています。 この患者は診断時に47歳で、胆管癌と診断されましたが、これは高齢の人のみに見られる胆管の珍しい癌です(83)。

 これら2例の患者の年齢はこれまでの知見とはかけはなれています。また危険因子がないこと、および外因性テストステロンと肝腫瘍との関連が知られていることから、ジェンダー肯定ホルモン療法と肝臓癌との関係に関する既存の文献の調査がされました。しかし、システマティック・レビューでも、入手可能なエビデンスが不足しているため、決定的な結論は出ませんでした。「入手可能なエビデンスは、これらの腫瘍の種類が稀であることと、(ジェンダー肯定ホルモン療法が)過去には利用できなかったことから制限がある」と(84)。

 外因性テストステロンを服用している生得的女性にとって懸念されるのは肝臓癌だけではありません。2022年のコホート研究では、テストステロンを投与された生得的女性において、異常なパップテスト(子宮頸がん細胞診断)の割合が高いことが示されました。研究者らは、「テストステロンは扁平上皮細胞の変化と膣内細菌叢の変化を誘発するようだ」と結論付けました(85)。他の研究では、テストステロンの使用と心臓発作のリスク増加との関連性が示唆されています(86,87)。

 近年、トランスジェンダーを自認し、テストステロン療法を求める10代の少女や若い女性が大幅に増加していることと、WPATHのジェンダー肯定医療モデルを考慮すると、これらの致命的な結果とホルモン治療との関係を調査することが急務となっています。さらに、WPATHによって承認された「インフォームド・コンセント・ケアモデル」は(患者の合意があればどんな治療も可能になるがゆえに)、この強力で潜在的に致命的なホルモンへのアクセスを容易にしました。一部の州では、18歳の女性なら、家族計画の同意書に署名するのと同じくらい簡単に(ホルモン治療に)アクセスできます(88)。

 また、カイザー・パーマネンテが実施した2018年の研究では、エストロゲンを摂取している生得的男性は、エストロゲンを開始してから平均4年以内に肺や脚の血栓、心臓発作、脳卒中を発症するリスクが5.2%あり(ただし、リスクの増加は早ければ1年で始まります)、トランス自認の生得的男性がエストロゲンを摂取する期間が長くなるほどリスクが高まることがわかりました(89)。

 2020年のコクラン・ライブラリの、生得的男性への異性化ホルモン療法の安全性と有効性に関する科学文献のシステマティック・レビューで、ジェンダー医学分野における質の高い研究の不足が露呈しました(90)。 レビューの結果、文献全体の中で、非常に低品質の分類に達した研究さえもなかったことが明らかになり、その結果、レビューで設定された選択基準を満たした研究は1件もなかったのです。

 「生得的男性をジェンダー移行させるホルモン療法の質を向上させるため40年以上努力しているにもかかわらず、【生得的男性】のジェンダー移行の異性化ホルモン治療アプローチの有効性と安全性を調査するためのRCTや適切なコホート研究はまだ行われていないことがわかった」と研究者らは書いています。「エビデンスは非常に不完全であり、現在の臨床診療と臨床研究の間にギャップがあることを示している」 と。 

 異性化ホルモン療法が安全で効果的であることを示す科学文献がないこと、また、既知の負の副作用の数と重篤な負の結果の可能性を考えると、WPATHが未成年者や重度の精神病者が心理療法無しに、これらの強力な薬にすぐにアクセスできるよう提唱することは、非倫理的なのです。

81)  Ibid (n.52)

82)  Lin, A. J., Baranski, T., Chaterjee, D., Chapman, W., Foltz, G., & Kim, H. “Androgen-Receptor-Positive Hepatocellular Carcinoma in a Transgender Teenager Taking Exogenous Testosterone.” The Lancet 396, no. 10245 (2020): 198. https://www.thelancet.com/article/S0140-6736(20)31538-5/fulltext

83)  Pothuri, V. S., Anzelmo, M., Gallaher, E., Ogunlana, Y., Aliabadi-Wahle, S., Tan, B., Crippin, J. S., & Hammill, C. H. “Transgender Males on Gender- Affirming Hormone Therapy and Hepatobiliary Neoplasms: A Systematic Review.” Endocrine Practice 29, no. 10 (2023/10/01/ 2023): 822-29. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37286102/

84)  Ibid (n.83)

85)  Lin, L. H., Zhou, F., Elishaev, E., Khader, S., Hernandez, A., Marcus, A., & Adler, E. “Cervicovaginal Cytology, Hpv Testing and Vaginal Flora in Transmasculine Persons Receiving Testosterone.” [In eng]. Diagn Cytopathol 50, no. 11 (Nov 2022): 518-24. https://doi.org/10.1002/dc.25030

86)  Alzahrani, T., Nguyen, T., Ryan, A., Dwairy, A., McCaffrey, J., Yunus, R., Forgione, J., Krepp, J., Nagy, C., Mazhari, R., & Reiner, J. (2019). Cardiovascular Disease Risk Factors and Myocardial Infarction in the Transgender Population. Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes, 12(4). https://doi.org/10.1161/circoutcomes.119.005597

87)  Nota, N. M., Wiepjes, C. M., De Blok, C. J. M., Gooren, L. J. G., Kreukels, B. P. C., & Den Heijer, M. (2019). Occurrence of Acute Cardiovascular Events in Transgender Individuals Receiving Hormone Therapy. Circulation, 139(11), 1461-1462. https://doi.org/10.1161/circulationaha.118.038584

88)  “I Want to Transition. How Old Do You Have to Be to Get Hrt?” Planned Parenthood, 2023, https://www.plannedparenthood.org/blog/i-want-to-transition-how-old-do-you-have-to-be-to-get-hrt

89)  Getahun, D., Nash, R., Flanders, W. D., Baird, T. C., Becerra-Culqui, T. A., Cromwell, L., Hunkeler, E., Lash, T. L., Millman, A., Quinn, V. P., Robinson, B., Roblin, D., Silverberg, M. J., Safer, J., Slovis, J., Tangpricha, V., & Goodman, M. (2018). Cross-sex Hormones and Acute Cardiovascular Events in Transgender Persons: A Cohort Study. Ann Intern Med, 169(4), 205-213. https://doi.org/10.7326/m17-2785n

90)  Haupt, C., Henke, M., Kutschmar, A., Hauser, B., Baldinger, S., Saenz, S. R., & Schreiber, G. (2020). Antiandrogen or estradiol treatment or both during hormone therapy in transitioning transgender women. Cochrane Database of Systematic Reviews(11). https://doi.org/10.1002/14651858.CD013138.pub2

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