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トランスジェンダーの思春期の若者における二次性徴抑制剤と異性化ホルモン療法が骨代謝マーカーと骨塩見かけ密度(BMAD)に及ぼす影響

C-1-002

原文

Vlot, M. C., Klink, D. T., den Heijer, M., Blankenstein, M. A., Rotteveel, J., & Heijboer, A. C. (2017). 
Effect of pubertal suppression and cross-sex hormone therapy on bone turnover markers and bone mineral apparent density (BMAD) in transgender adolescents
Bone95, 11–19.
 https://doi.org/10.1016/j.bone.2016.11.008

抄録

思春期は骨量の蓄積に非常に重要である。思春期のトランスジェンダーにおいて、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログ(GnRHa)により第二次性徴を抑制し、次いで異性化ホルモン療法(CSHT)により治療を行うと、骨代謝と骨塩密度(BMD)に影響を及ぼす可能性がある。

われわれの研究の目的は、思春期のトランスジェンダーにおいて、GnRHaとCSHTが骨代謝マーカー(BTM)と骨塩見かけ密度(BMAD)に及ぼす影響を調べることである。ジェンダー違和(性別違和)は、DSM-IV(TR)による診断基準に基づいて診断した。

34人のFtM(トランス男性)、22人のMtF(トランス女性)を対象とした。患者は、若年群(トランス女性では骨年齢15歳未満、トランス男性では骨年齢14歳未満)と高齢群(トランス女性では骨年齢15歳以上、トランス男性では骨年齢14歳以上)に分類した。全員にGnRHaトリプトレリンによる治療を行い、16歳からはCSHTを段階的に増量し投与した。トランス男性にはテストステロンエステル(Sustanon、MSD)が投与され、トランス女性には17-βエストラジオールが投与された。

この間、患者のP1NP、オステオカルシン、ICTP、腰椎(LS)と大腿骨頚部(FN)のBMDを時を隔てて3度計測。さらに、BMADとZスコアを算出した。

GnRHa治療中にP1NPおよび1CTPの減少が認められ、これは骨代謝の減少を意味する(若年トランス男性95%CI -74〜-50%、p=0.02、若年トランス女性95%CI -73〜-43、p=0.008)。

GnRHa治療による骨代謝の減少は、FNとLSのBMADの変化を伴わなかったが、LSのBMAD Zスコアは、特に若いトランス女性で有意に減少した。CSHTの24ヵ月後、P1NPとICTPのBTMは、高齢のトランス男性を除く全グループでさらに減少した。いっぽうCSHTの間、BMADは増加し、Zスコアは特にLSの正常値に戻った(若年トランス女性:CI 95% 0.1〜0.6、p=0.01、高齢トランス女性:CI 95% 0.3〜0.8、p=0.04)。

結論として、GnRHaによって第二次性徴を抑制すると、トランスジェンダーである思春期の女性とトランスジェンダーである男性の両方において、BTMが減少する。CSHTによる治療の結果、主にLSにおけるBMADおよびBMAD Zスコアの増加は、CSHT24ヵ月後のBTM濃度の減少を伴っている。したがって、BTM改良の効果は限定的であり、トランスジェンダーの思春期の若者の骨の健康状態を追跡調査する上でDXAスキャンを推奨する。

SEGMによる解説

健康な少年少女では、骨量は思春期に蓄積する。ジェンダー違和(性別違和)のある少年少女56人を対象に、二次性徴抑制と異性化ホルモン投与が骨代謝マーカーに及ぼす影響について、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログ(GnRHa)による二次性徴抑制とその後の異性化ホルモン投与が、骨代謝マーカー(BTM)、骨塩見かけ密度(BMAD)、および関連するZスコアに及ぼす影響を調べた初の後ろ向き研究である。

この研究において、GnRHa投与はBTMの減少、BMADのZスコアの減少、BMADの増加ではなく安定をもたらし、GnRHaを投与された思春期の若者の骨密度が同世代の思春期の若者の骨密度と比較して低下していることを示唆した。CSH開始後、BTMは減少し続け、BMADは増加した。BMADのZスコアは増加したが、24ヵ月後のCSH治療を受けたほとんどの思春期の若者では、治療前のBMADのZスコアには達していなかった。

SEGMの平易な言葉による結論

この研究では、思春期ブロッカー治療により骨量の蓄積が遅れた。その後の異性化ホルモン投与は骨成長を刺激したが、未治療群の骨密度に追いつくには不十分であった。したがって、二次性徴抑制剤投与後に異性化ホルモンを少なくとも2年間投与するという治療は、思春期の生物学的男性および女性の両方で、ピーク骨密度の達成を得られない。