ジェンダー医療研究会:JEGMA

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ジェンダー違和(性別違和)のために医学的 and/or 外科的移行の治療を受け その後に脱トランスした個人:脱トランス者100人の調査

D-1-008

原文

Littman, L. (2021).
Individuals Treated for Gender Dysphoria with Medical and/or Surgical Transition Who Subsequently Detransitioned: A Survey of 100 Detransitioners. Archives of Sexual Behavior.

https://doi.org/10.1007/s10508-021-02163-w

抄録

本研究の目的は、ジェンダー違和(性別違和:Gender Dysphoria)を経験し、医学的・外科的性別移行を選択した後、薬物療法の中止、または移行した性別を元に戻す手術(あるいはその両方)によって脱トランスした集団の状況について記述することであった。匿名調査への参加を呼びかける情報とリンクが、ソーシャルメディア、専門家向けメーリングリスト、および※スノーボールサンプリングを介して共有された。100人の参加者のうち69%が生得的女性で、31.0%が生得的男性であった。脱トランスの理由はさまざまで、その内訳は、差別を経験した(23.0%)、生得的な性別を名乗ることへの抵抗が和らいだ(60.0%)、ジェンダー移行(性別移行)の結果として医学的合併症が生じる可能性への懸念があった(49.0%)、ジェンダー違和(GD)がトラウマ、虐待、精神疾患などの特定の原因に由来していると考えるようになった(38.0%)などであった。ジェンダー移行とその後の脱トランスの原因として、ホモフォビア(同性愛嫌悪)や自身をレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルとして受け入れることの難しさを挙げた回答者は、23.0%いた。過半数(55.0%)は、ジェンダー移行を開始する前に医師やメンタルヘルスの専門家から十分な評価を受けられていなかったと感じており、脱トランスしたという事実を担当臨床医に伝えている回答者は24.0%のみにとどまった。脱トランスに至るまでの理由や経験は実にさまざまである。この集団について理解し、ジェンダー移行の後に脱トランスする者の割合を特定し、この集団の医学的・心理学的ニーズを満たし、ジェンダー移行前の評価とカウンセリングのプロセスに的確な情報を伝えるためには、さらなる研究が必要である。

※スノーボールサンプリング:非確率抽出法の1つ。知人の紹介に頼って標本を集める方法。縁故法、紹介法ともいう。

SEGMによる解説

本研究では脱トランス者100人を調査した。調査参加者は、まず医学的・外科的移行として、ジェンダー移行目的で二次性徴抑制剤(思春期ブロッカー)、異性化ホルモン、抗アンドロゲン剤、外科的処置のうち1つ以上の介入を受け、その後、薬剤投与を中止するか、ジェンダー移行(性別移行)による変化を元に戻す手術を受けることによって脱トランスしている必要があった。

脱トランス者の属性を見ると、大多数が女性(70%)で白人(90%)であり、80%以上が大学を卒業しているか、大学の何らかの課程を修了している。早発性ジェンダー違和の患者(56%)の方が、晩発性/思春期後ジェンダー違和の患者(44%)よりも若干多かった。しかし、女性の調査参加者の半数以上(55%)は、思春期後にジェンダー違和を発症している。女性の参加者は、ジェンダー移行のケアを求めたときの平均年齢が20歳、脱トランスを決意したときの平均年齢が24歳であった。それと比べると男性の年齢はかなり高く、医学的移行を求めたときの平均年齢は26歳、その後に脱トランスしたときの平均年齢は33歳であった。

内分泌系への介入に関しては、大多数(96%)がジェンダー移行の一環として異性化ホルモンの投与を受けていた。女性はテストステロンを平均2年間、男性はエストロゲンを平均5年間、そして抗アンドロゲン剤を平均3年間投与していた。外科的には、女性の3分の1が乳房切除術を受けており、男性の16%が豊胸術を受けていた。女性の性器手術はまれ(1%)であったが、男性の性器手術は豊胸術と同じ頻度(いずれも16%)で行われていた。

また脱トランスするために、回答者の大多数(95%)は異性化ホルモンの投与を中止し、9%は外科的処置を受けている。

ジェンダー移行/脱トランスの理由

男女とも、ジェンダー移行を望んだ理由として最も多く挙げられたのが「移行先のジェンダーとして他者から認識されたかった」(77%)だ。女性が多く挙げた理由は、「生得的性別・ジェンダーと結びつけられたくないと思った」(74%)、「自分の身体が当時のままでは"おかしい"気がした」(73%)、「気持ちが楽になる唯一の手段がジェンダー移行することだと思った」(73%)である。他方、男性が多く挙げた理由は、「移行先のジェンダーを自認していた」(77%)、「ジェンダー移行すれば本来の自分になれる気がした」(71%)、「ジェンダー移行すればジェンダー違和(GD)がなくなると思った」(71%)である。女性と男性の参加者間で見られたもう一つの顕著な違いは、ジェンダー関連のハラスメントだ。「ジェンダー関連のハラスメントが軽減されると思って移行した」と答えた参加者は、男性はわずか16%であったのに対し、女性は51%に及んだ。

また、ほぼ3分の1(30%)が、過去にトランスジェンダーであると自認したときの気持ちについて、「私がそのような気持ちを抱くのはトランスジェンダーだからだと誰かから言われ、私はそれを信じた」という回答を選んだ。多くの参加者は、ジェンダー移行するのが良いと考えるようになるきっかけとなった情報源として、ソーシャルメディア、オンラインコミュニティ、そして直接の知り合いである友人グループを挙げた。

男女ともに、脱トランスした理由として最も多く挙げられたのは「個人的な女性・男性の定義が変わり、生得的性別を自認することへの抵抗が減った」で、女性の65%、男性の48%がこの回答を選んでいる。ただし、それ以外の理由については、女性と男性の間で差が見られる。女性では、脱トランスした2番目の理由は「ジェンダー移行の結果として医学的合併症が生じる可能性への懸念があった」(58%)、3番目の理由は「ジェンダー移行が身体にもたらした結果への不満があった/変化が大きすぎると感じた」(51%)であった。対照的に、男性では、「ジェンダー移行が身体にもたらした結果への不満があった/変化が不十分だと感じた」、「ジェンダー移行によって身体の健康が悪化した」、「ジェンダー移行してもメンタルヘルスが改善しなかった」、「差別を受けたと感じた」(それぞれ36%)が理由として挙げられた。女性では、脱トランスした理由として「差別を受けたと感じた」を挙げる者は少なかった(17%)。

すべての脱トランス患者が後悔の念を表明しているわけではないが、50%が強く後悔または非常に強く後悔していると答えた。回答者の11%は「ジェンダー移行してよかった」、30%は「ジェンダー移行しなければよかった」と答えた。回答者の大多数は、ジェンダー移行を決断したことに不満(70%)を、脱トランスを決断したことに満足(85%)を感じていた。調査終了時点で、61%が出生時の性別の自認に戻り、14%がノンバイナリー自認、8%がトランスジェンダー自認であった。

 医療措置のギャップ

本研究は、参加者の多くに提供された医療措置とメンタルヘルスのケアの質について懸念を提起している。回答者の55%が1つ以上の精神医学上または神経発達上の問題を診断されており、37%がジェンダー違和(GD)の発症前にトラウマを経験したと報告しているものの、参加者の大多数(65%)は、ジェンダー移行願望がトラウマや精神的問題に由来するものであるかどうかを臨床医が評価しなかったと述べている。ジェンダー移行前に受けたカウンセリングでは移行に伴うメリットやリスクについて正確な情報が提供されたと回答した参加者はわずか27%で、半数近く(46%)は、移行によるメリットについての説明がポジティブすぎたと報告している。

憂慮すべきことに、精神科などの医師から医学的移行をするようプレッシャーをかけられたと答えた参加者もいた。治療を中断したことを担当臨床医に連絡済みの参加者は4分の1未満(24%)である。この事実は、患者の脱トランスを臨床医自身が把握していない可能性や、脱トランスした患者の割合がクリニックで過小評価されている可能性があることを示唆している。

SEGMの所見

本研究は、ジェンダー医療の状況が劇的に変化した2015年以前にジェンダー移行した個人の経験を主に記述したものである。ジェンダーにまつわる苦痛を訴える若者の数は2015年に急増したが、その理由はまだあまり広く理解されていない。同時に、ジェンダー違和(GD)の治療において、ホルモン療法や外科的介入を第一選択療法として選ぶ「ジェンダー肯定」アプローチが広く採用されるようになり、他方、「インフォームドコンセントのケアモデル」では、メンタルヘルス評価の要件が撤廃された。本研究によって浮き彫りとなった問題は、今日さらに広く蔓延している可能性が高く、もし対処しなければ、ジェンダーにまつわる苦痛のために不適切な医療介入を受ける患者の数が増えることになるかもしれない。

本研究は、脱トランス者の割合を体系的に研究することにより、その現状を確認し、若者のジェンダー違和(GD)を管理する代替的かつ非侵襲的なアプローチを開発するべきだということを示唆している。Behavioral Risk Factor Surveillance System(BRFSS:行動危険因子サーベイランスシステム)やYouth Behavior Risk Survey(YRBS:青少年リスク行動調査)のような、健康データを収集する米国の代表的な調査に、脱トランスの尺度を含めるよう求める本研究の提案をSEGMは支持する。YRBSの最新の推計によると、青少年の1.8%はトランスジェンダーを自認しており、さらに1.6%は自認が不明である。不可逆の医学的・外科的ジェンダー介入を求める若者の数が増える中で、脱トランスのデータの追跡を開始し、医療システムを整備することで、この新しい患者層のニーズに今まで以上に応えていくことが不可欠である。

segm.org

本文

序論

脱トランス(detransition)とは、ジェンダー移行(性別移行)を中止したり、元に戻したりする行為のことである。脱トランス者が認知されてきたのは最近のことであり、その数は急速に増えている可能性がある。2014年の時点では、ジェンダー移行した人が同じようにジェンダー移行した人を見つけるのは困難だった(Callahan, 2018)。2015年から2017年にかけて、個々の脱トランス者が書いたいくつかのブログ記事がオンライン上に現れ始め、脱トランス者のための私的な支援グループが形成され、脱トランス者のインタビューもニュース記事、雑誌、ブログに掲載され始めた(Anonymous, 2017、4thwavenow, 2016、Herzog, 2017、McCann, 2017)。2016年以前には、脱トランスに関するYouTube動画はほとんど存在しなかったが、2016年に複数の脱トランス者が自分たちの経験を記録した動画を投稿し始め、その数は現在も増え続けている。脚注1 2017年後半には、サブレディットのr/detrans(r/detrans, 2020)が活発化し、4年間のうちにメンバー数が100人から21,000人以上に増えた。2019年に実施されたr/detransの調査では、回答したメンバーの約3分の1が、ジェンダー移行断念者(desisters)または脱トランス者だったと推定されている(r/detrans, 2019)。4人の脱トランス者またはジェンダー移行断念者の若い女性からなるグループ「Pique Resilience Project」は、脱トランス者の経験を広く一般と共有するための手段の1つとして、2018年に設立された(Pique Resilience Project, 2019)。2019年後半には、「あらゆる場所にいる脱トランス者のウェルビーイングを改善する」ことを目的とする非営利団体「Detransition Advocacy Network」が発足し(The Detransition Advocacy Network, 2020)、脱トランス者のための正式な対面での会議が初めて開催された(Bridge, 2020)。このような大きな変化が起きつつある中で、脱トランス者の経験に関するさらなる研究を実施することが臨床医からも求められている(Butler & Hutchinson, 2020、Entwistle, 2021、Marchiano, 2020)。


2016年以前には脱トランス者に関する報告が少なく、発表された文献のほとんどは最近のものである(Callahan, 2018、D’Angelo, 2018、Djordjevic et al., 2016、Kuiper & Cohen-Kettenis, 1998、Levine, 2018、Marchiano, 2017、Pazos Guerra et al., 2020、Stella, 2016、Turban & Keuroghlian, 2018、Turban et al., 2021、Vandenbussche, 2021)。脱トランスに関して広く語られている文化的ナラティブは、「脱トランスした人のほとんどは再びジェンダー移行する。脱トランスに至った主な理由は、差別があった、他者からの圧力があった、ノンバイナリー自認になった」というものである(Turban et al., 2021)。しかし複数の症例報告において、トラウマ、ジェンダー移行に伴うメンタルヘルスの悪化、生得的性別への回帰、性的指向とジェンダーアイデンティティの分離の困難さといった、より広範かつ複雑な経験が説明されている(D’Angelo, 2018、Levine, 2018、Pazos Guerra et al., 2020)。脚注2脱トランス者やジェンダー移行断念者は、彼ら自身の言葉で以下のように語り、議論にさらなる深みを与えている。

(1) 彼らがトランスジェンダーを自認し、ジェンダー移行したのはトラウマ(性的トラウマを含む)や精神疾患が一因だった。(Callahan, 2018、Herzog, 2017、twitter.com/ftmdetransed & twitter.com/radfemjourney, 2019

(2) 彼らがジェンダー違和(GD)を感じたり、ジェンダー移行したりしたのは、ホモフォビア(同性愛嫌悪)や、同性愛者である自分自身を受け入れることの難しさのためであった。(Bridge, 2020、Callahan, 2018、upperhandMARS, 2020

(3) 彼らがトランスジェンダーを自認し、ジェンダー移行したいと思うに至った背景には、周囲の仲間、ソーシャルメディア、オンラインコミュニティからの影響があった。(Pique Resilience Project, 2019、Tracey, 2020、upperhandMARS, 2020

(4) 彼らのジェンダー違和(GD)はミソジニー(女性差別)に根ざしていた。(Herzog, 2017)

最近発表された2つの※便宜的標本抽出法(convenience sample)の報告を読むと、脱トランスというトピックについて、さらなる背景が見えてくる。第一の研究として、Turbanら(2021)は、United States Trans Survey(USTS)のデータ(James et al., 2016)を分析した。USTSには、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア(LGBTQ)、およびアライの組織を通じて募集された、米国のトランスジェンダーを含む多様なジェンダーの成人27,715人のデータが含まれている。USTSは、「あなたは脱トランスしたことがありますか?つまり、たとえしばらくの間でも、出生時に割り当てられた性別に戻って生活したことがありますか?」という質問を尋ね、「はい」、「いいえ」、「そもそもジェンダー移行したことがない」という多肢選択式の回答を用意した。「はい」と答えた2,242人の参加者について、Turbanらは、「なぜ脱トランスしたのですか?つまり、なぜ出生時に割り当てられた性別に戻って生活したのですか?(当てはまる回答すべてをマークしてください)」という多肢選択式の質問に対する回答の分析を行った。脱トランスの理由として用意された選択肢のほとんどは、外部からのプレッシャーに関するもの(配偶者やパートナーからの圧力、家族からの圧力、友人からの圧力、雇用主からの圧力、差別など)だったが、参加者はリストにない別の理由を書き込むこともできた。Turbanらのサンプルには、生得的女性(44.9%)よりも生得的男性(55.1%)が多く含まれていた。サンプルのおよそ半数(50.2%)が異性化ホルモンの投与を受け、16.5%が手術を受けていた。その結果、脱トランスの理由として、サンプルのほとんど(82.5%)が1つ以上の外的要因を挙げ、15.9%が1つ以上の内的要因(自分自身に起因する要因)を挙げていることが明らかになった。

※便宜的標本抽出法(convenience sample):非確率サンプリングの一種。母集団の身近な部分からサンプルを抽出する。

Vandenbussche(2021)による第二の研究では、脱トランス者のオンラインコミュニティから脱トランス者を募集し、「あなたは医学的・社会的にジェンダー移行し、その後に中止しましたか?」という質問に「はい」と答えた参加者のデータを分析した。参加者237人のサンプルは、多くが生得的女性(92%)で、主にアメリカ(51%)とヨーロッパ(32%)の出身者であった。多くの参加者(65%)は、医学的にも社会的にもジェンダー移行していた。参加者は、さまざまな経験を網羅した多肢選択式の回答の中から、脱トランスした理由を選んだ。また、別の理由を記入することもできた。脱トランスの理由としてよく選ばれた選択肢は、自分のジェンダー違和(GD)が他の問題に由来していることに気づいた(70%)、健康上の懸念(62%)、ジェンダー移行をしてもジェンダー違和(GD)が改善しないことに気づいた(50%)、自分のジェンダー違和(GD)に対処する代替手段を見つけた(45%)などであった。Turbanら(2021)の調査とは対照的に、支援の欠如、経済的な懸念、差別といった外的要因はあまり挙げられなかった(それぞれ13%、12%、10%)。サンプルの多くは、脱トランス時にサポートを失ったり、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)のコミュニティから排斥されたりしたと述べている。つまり、Vandenbussche(2021)の調査のような参加者の多くに、USTSの調査(James et al., 2016)の募集ではリーチできていなかったと考えられる。

本研究の目的は、ジェンダー違和(GD)を経験し、医学的・外科的移行を選択した後、薬物療法の中止、または移行を元に戻す手術(あるいはその両方)によって脱トランスした患者集団の状況について記述することであった。Turbanら(2021)やVandenbussche(2021)の調査とは異なり、本研究では、医学的、外科的、あるいはその両方でジェンダー移行・脱トランスした個人にのみ焦点を当てた。本研究の目的上、医学的移行とは、二次性徴抑制薬(思春期ブロッカー)、異性化ホルモン、抗アンドロゲン剤を使用することを指し、外科的移行とは、さまざまな外科的処置のいずれかを使用することを指す(一般的な外科的処置には、乳房切除、生殖器手術、豊胸手術が含まれる)。本研究は、医学的・外科的移行を受けて何ら問題が起きていない患者集団について記述することや、ジェンダー移行の後に脱トランスする患者の割合を評価することを目指しているわけではない。その代わりに、脱トランスの理由とそれにまつわるナラティブを明らかにすることにより、臨床ケアと将来の研究に的確な情報を提供することを目標とした。

方法

参加者と手順

参加者の募集期間中、研究基準を満たした101人が、オンライン調査に回答した。組み入れ基準は、(1) SurveyMonkeyの調査に回答できる人、(2) ジェンダー移行の目的で、異性化ホルモン、抗アンドロゲン剤、二次性徴抑制薬(思春期ブロッカー)、乳房手術、性器手術、その他の手術のうち1つ以上を受けたことがあると答えた人、および (3) 脱トランスする目的で、異性化ホルモンの投与を中止した、抗アンドロゲン剤の投与を中止した、二次性徴抑制薬(思春期ブロッカー)の投与を中止した、または移行を元に戻す手術を受けたことがあると答えた人である。1件の調査結果は回答内容が意味をなしていなかったために除外され、残りの100件の調査結果が分析対象となった。サンプルには生得的男性(31.0%)よりも生得的女性(69.0%)が多く含まれ、主に白人(90.0%)、非ヒスパニック系(98.0%)、米国在住(66.0%)の回答者で構成されていた。また無宗教が多く(63.0%)、ゲイとレズビアンのカップルが法的に結婚する権利を支持する人が大半だった(92.9%)(表1参照)。調査終了時の回答者の平均年齢は29.2歳(SD = 9.1)であったが、生得的女性の方が生生得的男性よりも有意に若かった(女性はM = 25.8、SD = 5.0、男性はM = 36.7、SD = 11.4。t(98) = − 6.56、p < .001)。ジェンダー移行前は、生得的女性はもっぱら同性愛的な性的指向を、生得的男性はもっぱら異性愛的な性的指向を示す傾向が強かった。


表1:人口統計情報とベースライン特性図

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本研究の著者と自ら脱トランスした2人の個人が、多肢選択式、リッカート式、および自由回答式の質問からなる合計115問の調査票を作成した。著者は、同僚からの紹介で、この2人の脱トランス者に会ったことがある。著者と脱トランス者2人は、共同で調査の質問を作成し、互いにフィードバックを提供しながら質問を改訂したが、その際には、内容と明確さを重視し、さまざまなジェンダー移行・脱トランスの経験との関連性を意識した。この調査票には、女性の脱トランス者を対象とした過去のオンライン調査(Stella, 2016)からも2つの質問を取り入れた。作成し終えた調査票は、HIPAA対応アカウントでSurveyMonkey(米国カリフォルニア州パロアルトのSurveyMonkey社)にアップロードした。

この調査へのリンクを含む参加者募集情報は、脱トランスの話題を扱うブログに掲載され、プライベートなオンラインの脱トランス者のフォーラム、非公開の脱トランス者のFacebookグループ、さらにTumblr、Twitter、Redditでも共有された。募集情報は、World Professional Association for Transgender HealthやAmerican Psychological Association Section 44の専門家のメーリングリストのほか、SEXNETのメーリングリスト(性の研究者と臨床家のメーリングリスト)でも共有された。またメーリングリスト上の専門家は、対象となりそうな関係者に募集情報を共有することが求められた。医学的・外科的移行の利用についてさまざまな異なる見解を持つコミュニティにリーチする努力が行われた。また募集情報には、ジェンダー移行の経験がポジティブかネガティブかニュートラルかにかかわらず、幅広い個人の参加を求めるという旨を記載した。参加候補者に対しても、他の参加できそうな人やそうした人のいるコミュニティと募集情報を共有するように呼びかけた。この調査は、2016年12月15日から2017年4月30日まで(4.5か月間)実施された。調査を終えるまでにかかった平均時間は49分で、調査の50%は32~71分で完了した。参加者へのインセンティブは提供されなかった。データはIPアドレスなしに匿名で収集され、SurveyMonkeyで安全に保存された。

本研究への参加は任意だった。すべての参加者から、以下の方法で電子的同意を取得した。オンライン調査の最初のページで、研究の目的、潜在的なリスクと利益について、そして参加は任意であることを回答者に伝え、研究者の連絡先情報を提供した。参加者がこの情報を読んだこと、参加に自発的に同意すること、および調査時点で18歳以上であることを示す「同意する」をクリックした場合にのみ、調査の質問が表示されるようにした。

 

測定方法

人口統計情報とベースライン特性

参加者の年齢、生来の性別、人種/民族、居住国、学歴、社会経済的状態、信仰している宗教、ゲイとレズビアンのカップルの法的な結婚についての意見、およびこの調査について最初にどこで知ったかについての情報が収集された。本稿における性的指向という用語は、各参加者の生得的性別と、彼らが性的魅力を感じる相手の生得的性別を指す。参加者は、ジェンダー移行前に自分の性的指向をどのように認識していたかについて、1つ以上のラベル(例えば、アセクシュアルの女性、バイセクシュアルの女性、異性愛の女性といった形で、参加者自身の性別を含む選択肢を用意)を選択するよう求められた。これらの回答は、参加者の生得的性別と一致するようにコード化され、同性愛者、異性愛者、バイセクシュアル、パンセクシュアル、アセクシュアル、および複数カテゴリに分類された。複数カテゴリには、2つ以上の回答を選択した回答者が分類された(例えば、レズビアン女性と異性愛者女性のように、2つ以上の性的魅力のパターンを示す回答が選ばれた場合)。ベースライン特性に関するその他の質問には、診断済みの精神疾患や神経発達障害、トラウマ、さらにジェンダー違和(GD)発症前の非自殺的な自傷行為(NSSI)などに関する質問が含まれていた。

ジェンダー違和(GD)の発症と類型

参加者は、初めてジェンダー違和(GD)を経験したのは何歳であったか、またそれが小児期中であったか、思春期開始時であったか、思春期中であったか、あるいはそれ以降であったかを尋ねられた。ジェンダー違和(GD)が「小児期中」に始まったという回答者は早発性ジェンダー違和(early-onset gender dysphoria)に、「思春期開始時」またはそれ以降に始まったという回答者は晩発性ジェンダー違和(late-onset gender dysphoria)に分類された。また参加者の類型は、Blanchard(1985, 1989)の類型論に従って、同性愛者(ジェンダー移行前の性的指向がもっぱら同性愛者であった場合)、または非同性愛者(異性愛者、アセクシュアル、バイセクシュアル、パンセクシュアル、複数カテゴリを含む)として評価された。

ジェンダー移行

参加者には、年齢と、ジェンダー移行用のケアを初めて求めた年、ジェンダー移行が自分にとって有用だと信じるに至った情報源、そしてジェンダー移行に向けてのプレッシャーを感じたかどうかが尋ねられた。過去の研究では、回答者の友人グループがトランスジェンダーでない人を馬鹿にしているか、回答者がジェンダー移行を決意する前に既存の友人グループ内の人々がジェンダー移行していたか、また回答者がジェンダー移行を表明した後に自身の人気がどのように変化したかを尋ねることで、友人グループの力学が評価された(Littman, 2018)。さらに、回答者の臨床医との経験や、ジェンダー移行するために取られた社会的・医学的・外科的措置、また各薬剤の投与期間についても質問が行われた。

脱トランス

参加者には、年齢と、脱トランスを決意した年、脱トランスを決意するまでのジェンダー移行していた期間、脱トランスを望んだ理由、脱トランスすることが自分にとって有用だと信じるに至った情報源、そして脱トランスに向けてのプレッシャーを感じたかどうかが尋ねられた。参加者はまた、どのような社会的・医学的・外科的措置を取って脱トランスしたのか、またジェンダー移行に利用した医師やクリニックに連絡し、脱トランスしたことを伝えたかどうかも尋ねられた。

ジェンダー移行と脱トランスのナラティブ

本稿で言う「ナラティブ」とは、ジェンダー移行と脱トランスの決断にまつわる経験や根拠を参加者がどう解釈したかを意味する。各参加者の調査結果を一連の該当するナラティブと関連付けるために、一部の質問(これらの質問の内容は補足資料に記載)について、水平パス(最初から最後まで)と垂直パスの視点からデータをレビューした。調査結果は、「差別」、「ノンバイナリー」、「再移行」、「トラウマとメンタルヘルス」、「内面化されたホモフォビア(同性愛嫌悪)」、「社会的影響」、「ミソジニー(女性嫌悪)」のナラティブのカテゴリのうち0個以上に分類されるようにコード化された。これらの各ナラティブと、関連する回答について、以下に詳述する。1つのナラティブにつき、1人の参加者が複数回引用されることがないよう、引用の例は注意深く選んだ。各ナラティブは、比較的広く受け入れられているナラティブを最初に、新しいナラティブをその次に、という順番で並べて報告した。

「差別」のナラティブは、差別や外部からの社会的圧力を経験したために脱トランスした場合と定義された。「ノンバイナリー」のナラティブは、現在の自認が「ノンバイナリー/ジェンダークィア」であると答えた場合か、あるいはノンバイナリーの自認を発見した/維持しているという自由記述式の回答が見られた場合である。本調査には再移行について具体的に尋ねる質問はなかったが、参加者が再移行を実施または再開したという自由記述式の回答を行った場合に、「再移行」のナラティブに分類された。「トラウマや精神疾患によってジェンダー違和(GD)が引き起こされた」というナラティブには、「私がトランスジェンダーだと思っていた気持ちは、実際にはトラウマの結果だった」、「私がトランスジェンダーだと思っていた気持ちは、実際には精神疾患の結果だった」、または「私のジェンダー違和(GD)は、特定の原因(例:トラウマ、虐待、精神疾患)によって引き起こされているということに気づいた」の選択肢を選んだ、あるいはこれらと同様の自由記述式の回答を行った人が分類された。「内面化されたホモフォビア(同性愛嫌悪)/自分がレズビアン女性、ゲイ男性、またはバイセクシュアルであるという事実を受け入れることの難しさ」のナラティブには、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルであることへの回答者自身の不快感や苦痛が、ジェンダー違和(GD)、ジェンダー移行、脱トランスに関連しているという記述がある場合や、自分がレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルであることをまだ理解していないためにトランスジェンダーだと思い込んでいるという記述がある場合が該当した。「ジェンダー移行への社会的圧力」のナラティブは、ジェンダー移行への圧力を感じたかという質問に対して「はい」と答え、その圧力が特定の人物や集団によるものであったという自由記述式の回答があった場合である。「ミソジニー(女性嫌悪)」のナラティブには、生得的女性が自由記述式の回答で「ミソジニー(女性嫌悪)」という言葉を使った場合や、女性性への嫌悪を表現した場合が該当した。

ジェンダー移行開始時および本調査終了時におけるジェンダーの認識

参加者は、ジェンダー移行開始時と本調査終了時に、自身のジェンダーをどのように認識していたかを尋ねられた。「女性」、「男性」、「ノンバイナリー/ジェンダークィア」、「トランス男性/FTM」、「トランス女性/MTF」、「上記のいずれでもない」、「その他」の選択肢が用意された。回答は生得的性別でコード化され、「トランスジェンダー」、「出生時の性別」、「ノンバイナリー」、「その他」に分類された。上記のカテゴリを複数組み合わせた回答があった場合は、「出生時の性別とノンバイナリー」のような組み合わせとして報告された。

ジェンダー移行と脱トランスの自己評価

ある質問では、調査参加者がジェンダー移行によって助かったと思うか、また別の質問では、ジェンダー移行による害があったと思うかについて、「とても助かった/害があった」、「少し助かった/害があった」、「まったく助かるところがなかった/害がなかった」の選択肢で尋ねた。これらの結果は、「純粋に助かった」、「純粋に害があった」、「助かった部分と害があった部分がある」に分類された。参加者には、以下のうちどの記述がジェンダー移行についての自分の感想に近いかを尋ねた:「ジェンダー移行してよかった」、「ジェンダー移行しなければよかった」、「ジェンダー移行したことにより、本来すべきことから気がそれてしまった」、「ジェンダー移行は私の人生の必要な部分だった」。参加者は、自分のジェンダー移行に対する後悔の度合い(「後悔していない」、「軽い後悔」、「強い後悔」、「非常に強い後悔」)を評価するよう求められ、ジェンダー移行および脱トランスの決断に対する満足度(「非常に満足している」、「とても満足している」、「やや満足している」、「やや不満である」、「とても不満である」、「非常に不満である」)も尋ねられた。満足度の選択肢は、「満足している」と「不満である」にまとめられた。さらに、もし当時、今の知識を持っていたら、ジェンダー移行を選択したかどうかも参加者に尋ねられた。

データ分析

データを整理した後、Google Sheetsを用いて統計分析を行った。結果は頻度、パーセンテージ、中央値、平均値、標準偏差によって示した。選択した変数についてt検定とカイ二乗検定を行い、p < .05で有意とみなした。定性的なデータは、参加者が追加情報を書ける自由記述式の回答から入手した。選択した自由記述式の回答は分類され、集計され、数値で報告された。このように、定性的なデータから目立つ回答の引用と要約を選定することを通じ、定量的な結果を説明し、関連する事例の情報を提供した。

結果

ジェンダー移行前

ジェンダー違和(GD)の発症前のメンタルヘルス診断とトラウマ体験:表2は、ジェンダー違和(GD)の発症前に起きたと報告された精神疾患、神経発達障害、NSSI、およびトラウマに関するデータを示している。これらの症状や出来事は、参加者がジェンダー違和(GD)を感じ始める前に発生していたことから、ジェンダー不合(性別不合: gender incongruence)やトランス差別の影響によるものとは考えられない。

表2:ジェンダー違和(GD)の発症前のメンタルヘルス診断とトラウマ体験図

ジェンダー違和(GD)の発症と類型:ほとんどの調査参加者(82.0%)は、最初にジェンダー違和(GD)を経験した時、平均年齢11.2歳(SD = 5.6)で、片方または両方の両親と同居していた。ジェンダー違和(GD)の平均発症年齢は、生得的女性(M = 11.3、SD = 5.4)と生得的男性(M = 11.0、SD = 5.9)の間で統計的な差はなく、t(96) = 0.25であった。Blanchardの類型に従うと、生得的女性の26.1%がもっぱら同性愛で73.9%が非同性愛、生得的男性の6.5%がもっぱら同性愛で93.5%が非同性愛であった(Blanchard, 1985, 1989)。回答者の半数強(56.0%)が早発性ジェンダー違和を、半数弱(44.0%)が晩発性ジェンダー違和を経験していた。生得的女性の晩発性ジェンダー違和は、2012年以前の科学文献にはほとんど見られなかったが(Steensma et al., 2013、Zucker & Bradley, 1995、Zucker et al., 2012a)、生得的女性の調査参加者の55.1%は、思春期以降にジェンダー違和(GD)が始まったと回答した。ジェンダー違和(GD)の発症時期に関する情報は、参加者自身の体験の報告であることから、これらのケースは、確かに晩発性ジェンダー違和であった(早発性ジェンダー違和で親などに隠していたというわけではない)と推測できる。


ジェンダー移行の理由:表3は、各人がジェンダー移行を希望した理由についてのデータである。最も多い回答は、「移行先のジェンダーとして認知されたかった(77.0%)」、「気持ちが楽になる唯一の手段がジェンダー移行することだと思った(71.0%)」、「自分の身体が当時のままではおかしい気がした(71.0%)」、「生得的性別と結びつけられたくないと思った(70.0%)」であった。多くの参加者は、ジェンダー移行することにより、ジェンダー違和(GD)がなくなる(65.0%)か減少する(63.0%)、また本来の自分になれる(64.0%)と考えていた。

表3:ジェンダー移行の理由図

ジェンダー移行を促した情報源と友人グループの力学:調査参加者は、ジェンダー移行することが自分にとって有用であると信じるに至った情報源についても回答した。特にソーシャルメディアとオンラインコミュニティの回答が最も多かった。具体的には、YouTubeのジェンダー移行に関する動画(48.0%)、ブログ(46.0%)、Tumblr(45.0%)、オンラインコミュニティ(43.0%)などであった(補足資料参照)。また、オフラインで直接知り合ったセラピスト(37.0%)、知人(28.0%)、友人グループ(27.0%)などの回答も多かった。調査参加者の一部は、過去の研究で特定された、友人グループの力学を経験していた。具体的には、トランスジェンダーでない人を馬鹿にするような友人グループに属していた(22.2%)、参加者がジェンダー移行を決意する前に既存の友人グループ内で1人以上の友人がジェンダー移行していた(36.4%)、ジェンダー移行の計画を発表した後に人気が上昇した(19.6%)などである(Littman, 2018)。ただし、多くの参加者はこうした経験をしていない(それぞれ68.7%、61.6%、62.9%)。

ジェンダー移行に向けてのプレッシャー:調査参加者の3分の1以上(37.4%)が、ジェンダー移行に向けてのプレッシャーを感じていた。ジェンダー移行へのプレッシャーを感じていたかどうかは、カイ二乗検定で生得的性別によって有意差が見られ、生得的女性>生得的男性であった(χ2(1, 99) = 4.22、p = .04)。28人の参加者が自由記述式で回答し、そのうち24人がプレッシャーの原因を書いた(17人が原因として社会的なプレッシャーを挙げ、7人が周囲とは無関係な原因を書いていた)。以下の引用に見られるように、ジェンダー移行へのプレッシャーの源として、臨床医、パートナー、友人、社会が挙げられた:「私のジェンダーセラピストは、それ(ジェンダー移行)がすべての万能薬であるかのように説明した」、「(私の)医師は診察のたびに薬や手術をすすめてきた」、「私はトランス女性と付き合っていたが、付き合いの前提条件として私がトランスすることを求めてきた」、「後にトランスした何人かの友人から、ジェンダー移行を先延ばしするなと言われ続けた」、「(私の)親友から、それ(ジェンダー移行)をするのが私にとってベストだと繰り返し言われた」、「フォーラムやコミュニティ、ネットの友人たちからすすめられた」、「社会全体から私はレズビアンではないと言われたように思った」、「自分が別のジェンダーであると感じたのなら、その感覚が正しいのであり、ジェンダー移行すべきだと皆から言われているように思った」。また以下のように、周囲の人とは無関係なプレッシャーを感じた参加者もいた:「ジェンダー違和(GD)を抱える自分はうまく生きられないと思ってプレッシャーを感じた」、「他人のせいではない。私自身の事情が原因だ」。

臨床医との経験:調査参加者が最初にジェンダー違和(GD)へのケアを求め、ジェンダー移行したいと思った時、参加者の半数以上(53.0%)は精神科医または心理士、約3分の1はプライマリケア医(34.0%)またはカウンセラー(認定臨床ソーシャルワーカー、認定専門カウンセラー、結婚・家族セラピストなどを含む)(32.0%)、あるいは内分泌科医(17.0%)にかかった。ジェンダー移行に際しては、参加者の45.0%がジェンダークリニックを受診し(ジェンダークリニック受診者の44.4%は、利用したジェンダークリニックはインフォームドコンセントのモデルに基づく治療を行っていると明記している)、28.0%が開業医、26.0%がグループ診療、13.0%がメンタルヘルスクリニックを受診していた(補足資料参照)。

調査参加者の過半数(56.7%)は、ジェンダー移行前に医師やメンタルヘルスの専門家から受けた評価が十分ではなかったと感じており、参加者の65.3%は、ジェンダー移行を望む気持ちがトラウマや精神疾患に由来するものであるかどうかを臨床医が評価しなかったと報告した。参加者の27.0%は、事前に受けたカウンセリングや情報で、ジェンダー移行のメリットとリスクについて正確な説明が行われたと答えているが、半数近くがジェンダー移行のメリットについての説明がポジティブすぎたと感じており(46.0%)、リスクについてのネガティブな説明はあまり行われなかったと答える人もいた(26.0%)。対照的に、メリットについてのポジティブな説明が不十分だったという人は5.0%、リスクについての説明がネガティブすぎたという人は6.0%と少数派であることから、ジェンダー移行が積極的にすすめられがちというバイアスが存在することが示唆された。

ジェンダー移行

調査参加者がジェンダー移行に向けての医療措置を求めた年齢は平均21.9歳(SD = 6.1)であり、生得的女性(M = 20.0、SD = 4.2)の方が生得的男性(M = 26.0、SD = 7.5)よりも若い傾向が見られた(t(97) = − 5.07、p < .001)。これら生得的男性の大多数がBlanchardの類型では非同性愛者に該当することから、生得的男性の方が生得的女性よりも高い年齢でジェンダー移行の医療措置を求める傾向があるという今回の知見は、先行研究(Blanchard et al., 1987)とも一致している。以上の結果として、医療措置が求められた年の平均は、生得的女性(M = 2011、SD = 3.8)の方が生得的男性(M = 2007、SD = 6.9)よりも最近である(t(96) = 2.78、p = .007)。したがって、ジェンダー移行を取り巻く文化や当時のジェンダー違和(GD)に対する一般的な医療アプローチの時代による違いのために、彼らが受けた医療措置の内容に差があった可能性がある。

ジェンダー移行の開始時には、参加者のほぼ全員(98.0%)が、トランスジェンダー(80.0%)、ノンバイナリー(15.0%)、トランスジェンダーとノンバイナリーの両方(3.0%)のいずれかを自認していた。参加者は、ジェンダー移行時にどのような社会的、医学的、外科的ステップを踏んだかも回答した。表4は、これらのステップを、必要に応じて生得的性別ごとに示している。ほとんどの回答者は、新しい代名詞(91.0%)と名前(88.0%)を採用し、生得的女性の大多数(97.1%)はバインダーを着用した。またほとんどの参加者が異性化ホルモンを(96.0%)、ほとんどの生得的男性が抗アンドロゲン剤を投与していた(87.1%)。最も頻繁に行われていたジェンダー移行手術は、生得的女性の乳房・胸部の手術(33.3%)であった。生殖器の手術はそれほど多くなかった(生得的女性の1.4%、生得的男性の16.1%)。生得的女性はテストステロンを平均2.0年間(SD = 1.6)投与した。生得的男性はエストロゲンを平均5.1年(SD = 5.9)、抗アンドロゲン剤を平均2.8年(SD = 2.6)投与した。二次性徴抑制薬(思春期ブロッカー)の投与を受けた患者は少数派で、その平均投与期間は1年未満であった(M = 0.9年、SD = 0.6)。

表4:社会的・医学的・外科的なジェンダー移行のステップ図

脱トランス

脱トランスを決意する前、調査参加者は平均3.9年(SD = 4.1)ジェンダー移行したままであったが、生得的女性(M = 3.2年、SD = 2.7)がジェンダー移行したままの期間は生得的男性(M = 5.4年、SD = 6.1)よりも短かった(t(96) = − 2.40、p = .018)。脱トランスを決意した時の参加者の平均年齢は26.4歳(SD = 7.4)であったが、生得的女性(M = 23.6、SD = 4.5)は生得的男性(M = 32.7、SD = 8.8)よりも有意に若かった(t(97) = − 6.75、p < .001)。参加者が脱トランスを決意した年の平均は2014年(M = 2014、SD = 3.3)で、生得的女性(M = 2014、SD = 3.3)と生得的男性(M = 2014、SD = 3.5)の間に有意な差は見られなかった(t(95) = 0.52)。

脱トランスの理由はさまざまであり、ほとんどの回答者(87.0%)が複数の理由を選択している。最も多かった脱トランスの理由は、回答者の個人的な男性・女性の定義が変わり、生得的性別を自認することに抵抗がなくなったから(60.0%)であった(表5参照)。その他の理由として多かったのは、医学的合併症が生じる可能性への懸念があった(49.0%)、ジェンダー移行してもメンタルヘルスが改善しなかった(42.0%)、ジェンダー移行が身体にもたらした結果への不満があった(40.0%)、ジェンダー違和(GD)がトラウマや精神疾患のような特定の原因に由来していることがわかった(38.0%)であった。差別を経験した(23.0%)、治療費の支払いを心配した(17.0%)といった、脱トランスへの外部からのプレッシャーを挙げた人は比較的少なかった。

表5:脱トランスの理由図

脱トランスへの奨励とプレッシャー:調査参加者は、脱トランスすることが自分にとって有用だと信じるに至った情報源を選択するよう求められた。回答の選択肢の中には、ブログ(37.0%)、Tumblr(35.0%)、YouTubeの脱トランスに関する動画(23.0%)などが含まれていた(補足資料参照)。また23.2%が、いずれかの時点で脱トランスへのプレッシャーを感じていた。脱トランスへのプレッシャーを感じたかどうかについては、生得的女性と生得的男性の間で有意な差は見られなかった(χ2(1, 99) = 1.11)。自由記述式の回答を行った21人のうち、14人が脱トランスへの社会的なプレッシャーを、3人が内面的なプレッシャーを感じ、4人がどちらともいえない/わからないと答えた。脱トランスへの社会的なプレッシャーとしては、7人がパートナーや、その他の家族からのプレッシャーを感じたと以下のように回答している:「もしすぐに脱トランスしなければ、子どもたちに二度と会わせないと脅された」、「ジェンダー移行を断念するよう父から強く言われた」、「両親から常に脱トランスをすすめられた」。また5人の参加者は、以下の引用のような社会的なプレッシャーを感じたと述べている:「私はパス度が低く、人前で馬鹿にされ、仕事にも就けなかった。トランスとして受け入れられなかった」、「私がジェンダー移行することに全世界から反対されたように感じた」。医師から、あるいはブログから脱トランスへのプレッシャーを感じた参加者もいた。

脱トランスのステップ:表6は、調査参加者の社会的・医学的・外科的な脱トランスのステップに関するデータである。ほぼすべての参加者が、異性化ホルモンの投与を中止することで医学的な脱トランスを行った(95.0%)。社会的脱トランスも広く行われており、過去に使用していた代名詞に戻した(63.0%)、出生時の名前に戻した(33.0%)、服装・髪型を変えた(48.0%)などの回答があった。外科的脱トランスは比較的少なかった(9.0%)。

表6:社会的・医学的・外科的な脱トランスのステップ図

ジェンダー違和(GD)へのより良い対処法の模索:調査参加者に、彼らが考えるジェンダー違和(GD)へのより良い対処法を選んでもらった。回答として、コミュニティ(44.0%)、マインドフルネス/瞑想(41.0%)、運動(39.0%)、セラピー(24.0%)、トラウマワーク(24.0%)、精神疾患に対する治療薬(18.0%)、ヨガ(14.0%)などが挙げられた。

ジェンダー移行と脱トランスのナラティブ

データから、いくつかのジェンダー移行と脱トランスのナラティブが浮かび上がった。参加者の半数近く(41.0%)は、回答の中で2つ以上のナラティブを記述した。

参加者の29.0%が、「差別と脱トランスへの外部からのプレッシャー」のナラティブを述べている。例として以下のような記述があった:「職に就くために脱トランスせざるを得なかった」、「ホームレスになって自活できなくなるのが怖かった」、「自分ではずっと幸せだと感じていたが、どこへ行く時も恐怖を感じた。パス度はまあまあだったが、完璧ではなかった。婦人服売り場では睨まれ、冷笑された。公衆トイレを使う勇気もなかった。なぜなら暴力的な男性と出くわすか、そうでない場合も暴力的な男性をけしかけてくるような女性がいたからだ」。

参加者の16.0%は、「ノンバイナリー」のナラティブを表現した。以下の引用のように、ジェンダー移行中にノンバイナリーとしての自分のジェンダーアイデンティティを発見したと語る人もいた:「自分の身体にまだ違和感はあったが、いったん停止して、本当にこのままジェンダー移行を続けるべきか考える必要があると思った。それで私は続けたいと思わなかったので、私はFTMではなく、ノンバイナリーなのだと思った」、「ジェンダー移行は思いどおりにいかなかった。私は間違ったジェンダーに移行した。まだ違和感があった。その後、私は男性なのではなくジェンダークィアなんだと気づいた。それが私の真のアイデンティティだと思って脱トランスした」。また、以下の引用のように、一貫してノンバイナリー自認の人もいた:「私の自認は以前と変わらなかった。私はHRTから望むものを得られたので、HRTをやめることにした」。(異性化ホルモンは「ホルモン補充療法」と呼ばれ、HRTと略されることもある)。

3人(3.0%)の参加者は、自由記述式の回答で「再移行」のナラティブを表現し、以下の引用コメントのように再度のジェンダー移行について説明した:「私は現在2回目のジェンダー移行中」、「私は5年間脱トランスした後、再びジェンダー移行している」、「ともかく、脱トランスから10年が経過し、またしてもジェンダー移行している」。

多くの参加者(58.0%)は、「トラウマや精神疾患によってジェンダー違和(GD)が引き起こされた」というナラティブを表現した。これは、自分のジェンダー違和(GD)はトラウマや精神疾患などの具体的な原因に由来するという回答が選ばれた場合である。参加者の半数以上(51.2%)は、ジェンダー移行を行ったせいでトラウマ・精神疾患への対処や治療が遅れたり、妨げられたりしたと考えている。以下は、参加者が脱トランスした理由の回答例である:「私は、自分自身と身体との間に深刻な断絶をもたらした精神疾患やトラウマ体験に少しずつ向き合い始めた」、「多くの人が自己嫌悪からジェンダー移行していて、それが自分にも当てはまると気づき始めたため、ジェンダー移行に批判的な意見を持つようになった」、「私は自分の第二次性徴をとても不快に思っていたが、それは幼少期のトラウマの結果で、第二次性徴をそれらの出来事と結びつけていたためであったと今では理解している」。

調査ではこのトピックに関する質問は一切なかったものの、参加者の4分の1近く(23.0%)は、「内面化されたホモフォビア(同性愛嫌悪)、および自分がレズビアン女性、ゲイ男性、またはバイセクシュアルであるという事実を受け入れることの難しさ」のナラティブを表現していた。彼らは、こうした経験が自身のジェンダー違和(GD)、ジェンダー移行願望、そして脱トランスに寄与していたと自発的に記述していた。このカテゴリの参加者は全員、もっぱら同性に惹かれるか、あるいは同性と異性の両方に惹かれるか(バイセクシュアル、パンセクシュアルなど)のどちらかであった。彼らがジェンダー移行した理由として、「その他」の欄に以下の回答が書き込まれた:「男性にジェンダー移行すれば、女の子に惹かれる私も『普通』になる」、「レズビアンであるよりも、『ゲイのトランス男性』(生物学的には女性同士の交際)の方が、恥ずかしくなく、良いことのように感じられた」、「私は同性愛者であることを抑圧してきたが、異性になってしまえば怖くなくなると思った」、「自分がゲイ男性なのが嫌だった」。また、以下のように、自分がレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルであることを理解するまでに時間がかかったと語る参加者もいた:「当時、私は自分のアイデンティティを模索していて、自分のことをとても男性的だと感じ、トランスジェンダーだと思っていた。その後、自分がレズビアンであることに気づいた」、「深い内省の後、私は自分がゲイ男性であることに気づき、思春期以降の性的トラウマのせいで混乱した可能性があると思った。私はまたゲイ男性として生きたい」。また生得的女性で、他のブッチ(男っぽい)レズビアンを見たために理解が深まったと次のように語る回答者も複数いた:「私は女性のコミュニティ、特にレズビアンのコミュニティにアクセスできたために理解を深めることができた。多様な女性のロールモデルやメンター、特に他のブッチ女性とコミュニケーションを取る必要があった」。

「社会的影響」のナラティブは、参加者がジェンダー移行に向けてのプレッシャーを誰かから感じたと回答した場合である。参加者の5分の1(20.0%)は、ジェンダー移行へのプレッシャーを誰かから感じたと述べている。社会的影響に関する引用コメントの例は、前のセクションで説明したとおりである。

生得的女性のうち7.2%は、「ミソジニー(女性嫌悪)」のナラティブを表現した。引用コメントの例を以下に挙げる:「それ(違和)の大部分が、内面化されたミソジニー(女性嫌悪)やホモフォビア(同性愛嫌悪)に起因していることがわかった」、「女性であるということは、悪いことでも、嫌なことでも、弱いことでもないとようやく気づいた」、「私のジェンダー移行は、女性性や女性らしさからなるべく遠ざかろうとする絶望的な試みだった。内面化されたレズビアン嫌悪と女性嫌悪に性的トラウマの過去が重なっていることが原因だった」。

脱トランス後

傾向:調査終了時点で、多くの参加者(61.0%)は、出生時の性別のみの自認に戻っており、さらに10.0%が、出生時の性別ともう1つのジェンダーを自認していた。参加者の14%はノンバイナリーのみを自認し、さらに11.0%がノンバイナリーともう1つのジェンダーを自認していた。参加者の8%はトランスジェンダーのみを自認し、さらに5.0%がトランスジェンダーともう1つのジェンダーを自認していた。回答者の4%は上記のカテゴリに当てはまらず、「その他」とコード化された。図1は、参加者の現在のジェンダーの認識(脱トランス後)の分布を示している。自身のジェンダー移行を担当した医師やクリニックに脱トランスしたことを連絡済みの参加者は24.0%にとどまった。

 図

参加者の現在のジェンダーの認識(脱トランス後)の分布(n = 100)。注:「出生時の性別」の丸に表示されている数字の合計は、「出生時の性別を自認(71人)」=「出生時の性別のみを自認(61人)」+「出生時の性別ともう1つのジェンダーを自認(10人)」に戻った参加者の数を示し、2つの丸との重なりで表される。例えば、8人の参加者は、出生時の性別とノンバイナリーを自認している。「ノンバイナリー」の丸に表示されている数字の合計は、「ノンバイナリーを自認(25人)」=「ノンバイナリーのみを自認(14人)」+「ノンバイナリーともう1つのジェンダーを自認(11人)」である。トランスジェンダー」の丸に表示されている数字の合計は、「トランスジェンダーを自認(13人)」=「トランスジェンダーのみを自認(8人)」+「トランスジェンダーともう1つのジェンダーを自認(5人)」である。4人の参加者は、上記のカテゴリに当てはまらない回答をし、「その他」とコード化された。

過去にトランスジェンダーを自認していたことへの自己評価:表7は、参加者が過去にトランスジェンダーを自認していたことを現在どのように感じているかを示す回答のデータである。最も選ばれることの多かった記述は以下のとおりである:「ジェンダー違和(GD)は、私が感じていた気持ちを表すのにぴったりの説明だと思った」(57.0%)、「私のジェンダー違和(GD)は、現在もジェンダー移行したままの人が感じているジェンダー違和(GD)と似ていると思う」(42.0%)、「私がトランスジェンダーであると思っていた気持ちは、実際にはトラウマの結果だった」(36.0%)、「私がトランスジェンダーであると思っていた気持ちは、実際には精神疾患の結果だった」(36.0%)。

表7:過去にトランスジェンダーを自認していたことへの自己評価図

ジェンダー移行と脱トランスの自己評価:ジェンダー移行に関するどの記述が自分の気持ちを最もよく表しているかと尋ねたところ、3分の1近く(30.0%)が「ジェンダー移行しなければよかった」、11.0%が「ジェンダー移行してよかった」を選択した。また34.0%は「ジェンダー移行は私の人生の必要な部分だった」、21.0%は「ジェンダー移行したことにより、本来すべきことから気がそれてしまった」と回答している。また、ジェンダー移行によって助かったと思うか、それとも害があったと思うかについての回答も複雑であった。50.5%が「助かった」と「害があった」の両方を選択したのに対し、32.3%が「害があった」だけ、17.2%が「助かった」だけを選んだ。回答者の多くは、ジェンダー移行を決断したことに不満(69.7%)を、脱トランスを決断したことに満足(84.7%)を感じていた。ジェンダー移行したことに何らにかの後悔を感じている人が大半(79.8%)で、半数近く(49.5%)は後悔または非常に強い後悔があると答えた。回答者の多く(64.6%)は、当時、今の知識を持っていたら、ジェンダー移行を選ばなかったと回答した。

考察

本研究では、ジェンダー違和(GD)のために医学的・外科的治療を受け、その後に脱トランスした(薬剤投与を中止した、あるいは移行を元に戻す手術を受けた)個人の経験を調査した。しかしながら、本研究の知見は、脱トランスするすべての個人を代表するものだと考えるべきではない。本研究は、脱トランス者が存在するという事実のさらなる記録となるものの、ジェンダー移行の後に脱トランスする者の割合がどれほどであるかは不明である。ジェンダー移行を担当した臨床医やクリニックに対して、自分が脱トランスしたと連絡したのは、脱トランス者のごく一部(24.0%)だった。そのため、クリニックでは脱トランス者の割合が過小評価されている可能性が高い。ジェンダー移行の専門医も、自分の担当患者のうち何人が脱トランスしたのかを(とりわけ自分の担当から外れた患者については)知らない可能性がある。

本調査から、脱トランスした人の経験はさまざまであり、脱トランスした理由も複雑であることがわかる。ほぼすべての参加者は、ジェンダー移行開始時にはトランスジェンダーまたはノンバイナリーを自認していた。彼らのほとんどは、生得的性別で見られたくなかった、自分の身体が当時のままではおかしいと感じていた、あるいはジェンダー移行が苦痛を和らげる唯一の手段であると信じていたために、ジェンダー移行を望んだ。ジェンダー移行によって助かったと感じた人もいたし、単純に生活や社会の中でプレッシャーを受けたり、医学的合併症が起きたりしたせいで脱トランスしたと答えた人もいた。また、ジェンダー移行による害があったと答えた人の中には、ジェンダー違和(GD)の原因がトラウマ、精神疾患、内面化されたホモフォビア(同性愛嫌悪)、ミソジニー(女性嫌悪)などであり、ジェンダー移行で解決できる可能性が低いと結論づけたために、脱トランスを決断した者もいた。これらの知見により、ジェンダー違和(GD)の複雑さが浮き彫りになった。場合によっては、ジェンダー違和(GD)が発症した経緯や併存疾患の精査を怠ると、誤診、診断の見逃し、および不適切なジェンダー移行につながるケースがあることが示唆された。また、ジェンダー違和(GD)が解消したため、症状へのより良い対処法を見つけたため、あるいは個人的な男性・女性の定義が変化し、生得的性別を自認することに抵抗がなくなったために、脱トランスを決断した人もいた。

本研究のサンプルは、主に若い生得的女性で、その多くが晩発性ジェンダー違和を経験している。この状況には、ジェンダー違和(GD)のケアを求める若者の最近の人口統計上での顕著な増加や、Littman(2018)の研究でのそうした若者に関する両親の記述が反映されている(Aitken et al., 2015、de Graaf et al., 2018、Zucker, 2019も参照)。この新しいジェンダー違和(GD)の集団は、従来の集団とは異なるのではないかという懸念が提起されている。専門家たちは、永続的な影響を及ぼす介入によってこの集団の治療を行う前に十分注意するよう呼びかけ始めている。なぜなら、彼らのジェンダー違和(GD)の病因、治療の離脱率と継続率、予想される症状の持続期間などのほか、ジェンダー移行のプロセスがこの新しい集団にとって助かるものなのか害があるものなのかがまだわかっていないからだ(D’Angelo et al., 2021、Kaltiala-Heino et al., 2018)。このサンプルにおける生得的女性と生得的男性は、生得的女性の方が生得的男性よりも若い(ジェンダー移行を希望した時点、脱トランスを決意した時点、調査終了時点において)など、いくつかの点で異なっていた。生得的女性は生得的男性よりも、ジェンダー違和(GD)の発症前の1年以内にトラウマを経験しているケースが多く、ジェンダー移行すべきだというプレッシャーを感じている割合も高かった。生得的女性は生得的男性と比べ、脱トランスを決断するまでのジェンダー移行している期間が短かった。さらに、調査された生得的女性のジェンダー移行は生得的男性よりも最近であり、ジェンダー違和(GD)の臨床管理上の傾向やジェンダー違和(GD)となる文化的背景が変化していることから、両者間の経験は異なる可能性がある。

本研究の結果は、幅広い脱トランスの経験をカバーしており、その内容は今までに発表された臨床症例報告や症例シリーズに記載されている多様な経験と一致している。重複する知見としては、ジェンダー移行への後悔、ジェンダー移行への後悔の欠如、出生時の性別への自認の回帰、トランスジェンダー自認の継続、ジェンダー移行によるウェルビーイングの改善または悪化、再移行、外部からの社会的プレッシャーによる脱トランス、ノンバイナリー自認、そして自分が同性愛者またはバイセクシュアルであるという認識とその受容が挙げられる(D’Angelo, 2018、Djordjevic et al., 2016、Levine, 2018、Pazos Guerra et al., 2020、Turban & Keuroghlian, 2018、Turban et al., 2021、Vandenbussche, 2021)。本研究の対象集団は、Vandenbusscheの研究の対象集団と類似しており、両方とも20代半ばの生得的女性が中心であった。本研究では2016~2017年に参加者の募集を行い、Vandenbusscheの研究では2019年に募集を行った。参加者の平均年齢が類似しているのは、オンラインの脱トランス者のコミュニティでリーチしやすい個人の年齢が反映された結果であると考えられる。脱トランスの理由など、本研究のいくつかの知見は、Vandenbusscheの知見と一致している(ジェンダー違和(GD)が他の問題と関連していることに気づいた、ジェンダー違和(GD)への代替的な対処法を見つけた、ジェンダー違和(GD)が解消された等)。これら2つの研究は、異なる年に参加者を募集し、異なる適格基準を持ち、複数の国からの参加者を含んでいるが、研究対象集団が部分的に重複している可能性もある。

本研究の結果は、内面化されたホモフォビア(同性愛嫌悪)、ジェンダー違和(GD)、およびジェンダー移行願望の間の複雑な関係について、さらなる洞察をもたらす。ジェンダー移行においてホモフォビア(同性愛嫌悪)は何らの役割も持っていないという議論(Ashley, 2020)もあるものの、それとは対照的に、本研究の参加者自身が、自分のジェンダー違和(GD)とジェンダー移行願望は、同性に惹かれることへの不快感、ゲイでありたくないという願望、あるいは自分がレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルであるという事実を受け入れることの難しさに由来していると報告した。これらの人々にとっては、性的指向の問題にまつわる苦悩や不快感を探求した方が、医学的・外科的な性別移行を目指すよりも有用だったかもしれない(少なくとも、ジェンダー移行を決断する前にそうした探求を行うことが重要だったかもしれない)。本調査は、ジェンダー違和(GD)が一時的なものである場合があるという既存のエビデンス(Ristori & Steensma, 2016、Singh et al., 2021、Zucker, 2018)の裏付けともなっている。思春期前の青少年がジェンダー違和(GD)を感じている場合、最も確度の高い見通しは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル(LGB)(非トランスジェンダー)の成人へと成長していくことである(Ristori & Steensma, 2016、Singh et al., 2021、Wallien & Cohen-Kettenis, 2008、Zucker, 2018)。また、一時的なジェンダー違和(GD)を持つのは、LGBのアイデンティティの発達において一般的なプロセスである可能性もある(Korte et al., 2008、Patterson, 2018)。したがって、ジェンダー違和(GD)を持つ青少年に対し、早すぎる医学的介入を行った場合は、LGB・非トランスジェンダーの成人に成長するはずの青少年の発達を医原的に妨害してしまう危険性がある。生得的性別を自認することへの抵抗がなくなり、ジェンダー違和(GD)が解消されたために脱トランスした調査参加者の存在は、ジェンダー違和(GD)が必ずしも永続的なものではないことのさらなる裏付けとなっている。

本研究のデータは、当事者の実体験により、いわゆる急速発症性ジェンダー違和(ROGD)仮説を補強する結果となった。心理社会的要因(トラウマ、精神疾患、不適応な対処メカニズム、内面化されたホモフォビア(同性愛嫌悪)、社会的影響など)が、一部の個人においてジェンダー違和(GD)を引き起こしたり、ジェンダー違和(GD)の一因となったりすることが判明したためである(Littman, 2018)。Littmanはまた、さまざまな症状をジェンダー違和(およびトランスジェンダーであることの証拠)であると解釈すべきだという考え方や、ジェンダー移行こそが苦痛を和らげる唯一の解決策であるという考え方が、仲間内の伝染によって広まる可能性があると仮定した。本研究は、ジェンダー違和(GD)の発症においては心理社会的要因が潜在的に一定の役割を果たしているという見方を支持する。さらに、ジェンダー移行することで根本的な症状への対処が妨げられたり遅れたりしたという参加者の回答から、不適応な対処メカニズムが関係している個人も存在すると見られる。社会的影響が潜在的役割を果たしていることも示されている。第一に、過去にトランスジェンダーを自認していたことについて現在どのように感じているかを尋ねたところ、回答者の3分の1以上が、「私がそのような気持ちを抱くのはトランスジェンダーだからだと誰かから言われ、私はそれを信じた」という選択肢を選んだ。第二に、仲間はトランスジェンダーでない人を馬鹿にしており、自分がジェンダー移行する計画を発表すると友人グループ内での人気が高まるという、Littmanの研究で報告された独自の友人グループの力学を経験した調査参加者もいた。さらに、回答者は、ジェンダー移行することが自分にとって有用だと信じるに至ったいくつかの社会的情報源として、YouTubeのジェンダー移行に関する動画、ブログ、Tumblr、オンラインコミュニティなどを挙げた。そして最後に、参加者の20.0%は、友人、パートナー、社会などの社会的情報源からジェンダー移行するべきだというプレッシャーを感じていた。さらなる研究により、これらの仮説をさらに掘り下げる必要がある。

本研究とTurbanら(2021)によるUSTSデータの分析との間には、いくつかの類似点と相違点がある。類似点としては、便宜的標本抽出法(convenience sample)の使用、対象を絞った参加者募集、匿名でのデータ収集が挙げられる。Turbanらの所見(脱トランスに向けた外部からのプレッシャーや、脱トランス後のトランスジェンダー自認なども含む)は、本研究で記述された一連の経験のサブセットとしても確認された。本研究がJamesら(2016)やTurbanらの研究と異なる点は、現在の自認にかかわらず医学的・外科的移行後の脱トランスという基準に基づいて参加者を登録したこと、ジェンダー移行と脱トランスについて多様な視点を持つコミュニティから参加者を募集したこと、薬物療法や外科手術を受けたことがあるという脱トランスの正確な定義を用いたこと、および多くの異なるタイプの脱トランス経験にまつわる回答の選択肢を用意したことである。これとは対照的に、USTSは、医学的移行か外科的移行かにかかわらず、トランスジェンダー自認者のみを登録し、ジェンダー移行と脱トランスに関して類似した視点を持っていると思われるコミュニティから参加者を募集し、より狭い範囲の脱トランス経験にまつわる多肢選択式の回答を用意した(James et al., 2016)。さらに、USTSが使用している「脱トランス」の定義(「少なくともしばらくの間、出生時に割り当てられた性別に戻って生活するようになった」)は非常に曖昧である。Turbanらの研究は、トランスジェンダー自認者のうち、脱トランスした可能性のある人のサブセットについて貴重な情報を提供しているが、今回の研究は、医学的・外科的な移行後に脱トランスした人について、より包括的な見方を提供している。

過去15年間で、ジェンダー違和(GD)患者への臨床的アプローチは大きく変化している。特に、徹底した評価と慎重な医学的・外科的移行を用いるアプローチ(注意深い経過観察を伴うオランダ式アプローチ、発達状況に配慮したアプローチ、および医学的ケアモデル)から、評価を最小限に抑えるか排除し、ジェンダー移行介入を自由に行うアプローチ(肯定アプローチおよびインフォームドコンセントのケアモデル)への転換が進みつつあることが注目されている(Cavanaugh et al., 2016、de Vries & Cohen-Kettenis, 2012、Meyer et al., 2002、Rafferty et al., 2018、Schulz, 2018、Zucker et al., 2012b)。この傾向は米国で顕著であり、米国小児科学会は2018年に肯定アプローチを支持し、全米家族計画連盟は現在、35州の200以上のクリニックでインフォームドコンセントのモデルを用いて医学的移行を提供している(Planned Parenthood, 2021、Rafferty et al., 2018)。このような臨床的転換の意図せざる結果として、脱トランス者の数が増加する可能性は十分に考えられる。本研究の参加者の多くは、ジェンダー移行前に臨床医から十分な評価を受けられていなかったと考えている。「十分な評価」の定義は本調査には記載されておらず、回答者ごとに解釈が異なる余地があるかもしれない。しかし、本研究で説明したジェンダー違和の複雑さを踏まえると、「十分」のハードルが低ければ、それが一時的でないジェンダー違和(GD)であると誤解されうる要因だけでなく、ジェンダー違和(GD)の根本的な原因となりうる要因も探索できると考えられるかもしれない。最近登場したジェンダー違和(GD)へのアプローチとして「探索的アプローチ」と呼ばれるものがある。これは、個人が自身のジェンダーにまつわる苦痛や、ジェンダー違和(GD)の要因への理解を深めるために役立つ中立的な心理療法アプローチである(Churcher Clarke & Spiliadis, 2019、Spiliadis, 2019)。本研究の結果は、一部の回答者にとって探索的アプローチが有益であった可能性を示唆している。どのような患者をどのようなアプローチで治療するのが長期的に最適なのかを明らかにするためには、今後さらなる研究が必要である。

医学的・外科的介入を検討している患者は、その治療のリスク、メリット、代替手段について正確な情報を入手できるようにするべきである。このサンプルでは、参加者の半数近くが、カウンセリングではジェンダー移行のメリットについての説明がポジティブすぎたと報告し、4分の1以上が、リスクについてのネガティブな説明が不十分だったと報告している。医師やセラピストからジェンダー移行へのプレッシャーを感じたという参加者もいた。このような臨床的やり取りが確認された場合は、こうした状況がどの程度生じているのか、また臨床医が患者に正確かつ冷静に選択肢を提示するためにどのような対策を取れるかを調査する必要がある。

脱トランス者やジェンダー移行断念者の正確な割合を把握するためには、スティグマや、脱トランスしたことを臨床医に伝える脱トランス者の少なさなど、いくつかの障害がある。このような障壁を回避する方法の1つとして、医療データを収集する全国的な調査に、脱トランスやジェンダー移行の断念に関する偏見のない質問を組み込むことが考えられる。例えば、行動危険因子サーベイランスシステム(Behavioral Risk Factor Surveillance System)には、性的指向とジェンダーアイデンティティに関するオプションのモジュールがあり、ジェンダー関連の問題を探る2つの質問が含まれている(Downing & Przedworski, 2018)。既存の1つの質問「あなたは自分をトランスジェンダーだと思いますか?」を、2つの質問「これまでの人生のいずれかの時点で、あなたは自分をトランスジェンダーだと思ったことがありますか?」と「現在、あなたは自分をトランスジェンダーだと思いますか?」に変更すること、および、過去にはトランスジェンダーだったが現在はトランスジェンダーではないという回答があった場合にはフォローアップの質問として「二次性徴抑制薬(思春期ブロッカー)、異性化ホルモン、抗アンドロゲン剤の投与を受けたことがありますか、またジェンダー移行の一環として手術を受けたことがありますか?」を追加することにより、ジェンダー移行の断念、脱トランス、および現在のトランスジェンダー自認に関する貴重な情報を得られるだろう。この種の質問は、臨床現場や電子カルテにおいても有用かもしれない。脱トランス者やジェンダー移行断念者の割合について得られた情報は、医学的・外科的移行を開始する際のインフォームドコンセントのプロセスに役立ち、トランスジェンダー医療の向上に寄与するだろう。

本研究の長所の1つは、これまでで最大規模の脱トランス者のサンプルを用いている点である。その他の長所としては、脱トランスの正確な定義を用いたこと、脱トランス後のジェンダーの認識に関係なく脱トランス者を登録したこと、ジェンダー移行と脱トランスに関する見解が分かれる可能性の高いコミュニティから参加者を募集したこと、また脱トランス経験者2人との協力を通じ、さまざまな脱トランス経験に関する質問を含む調査票を作成し、募集活動を強化したことなどが挙げられる。

本研究には、結果を解釈する際に考慮すべきいくつかの限界がある。Vandenbussche(2021)、Jamesら(2016)、Turbanら(2021)の研究と同様に、横断的デザイン、匿名調査、便宜的標本抽出法(convenience sample)を用いたため、これらの方法論に固有の限界と同じ制約を共有している。これらの限界には、因果関係についての結論を確定できないこと、参加者の身元を確認できないこと、そして本研究の結果を脱トランス者の集団全体や参加者の出身国以外の人々に対して普遍的に適用できない可能性があることなどが含まれる。本研究は、ジェンダー移行と脱トランスについてさまざまな見解を持つコミュニティに参加を呼びかけたが、対象を絞った参加者募集や便宜的標本抽出法(convenience sample)には、常に選択バイアスに起因する限界がつきまとうため、今後の研究で対処する必要がある。最後に、本研究の参加者の多くは、医学的・外科的移行によって理想的とは言えない結果を得ており、こうした経験が回答内容の一部に影響を及ぼしている可能性がある。

ジェンダー移行の後に脱トランスした者の割合を明らかにし、新たな脱トランス者集団の心理的・医学的ニーズを特定して満たすためには、さらなる研究が必要である。脱トランスの多くは出生時の性別の自認に戻り、LGBTコミュニティとのつながりもなくなり、ジェンダークリニックに戻ることもないため、脱トランスに関する今後の研究においては、ジェンダークリニックやトランスジェンダーコミュニティ以外にも参加者募集活動を拡大する必要がある。ジェンダー違和(GD)に対する非医学的介入手法の開発と検証を実施すれば、医学的・外科的治療と代替可能または併用可能な貴重な選択肢を提供できる可能性がある。トラウマ、精神疾患、内面化されたホモフォビア(同性愛嫌悪)、ミソジニー(女性嫌悪)がジェンダー違和(GD)として現れる場合もあるため、ジェンダー移行前の評価プロセスに関する研究も実施し、ジェンダーに関連する苦痛の解消に役立つ可能性がある要因を丁寧に扱い、協調的に調査していくアプローチを見つける必要がある。医学的・外科的なジェンダー移行療法を受けた青少年に対する長期的なアウトカムのエビデンスは引き続き存在せず、晩発性ジェンダー違和を経験した青少年の軌跡に関する情報も不足していることから、これらのギャップを解消する研究も不可欠である。硬直したジェンダーロールを減らし、ジェンダーステレオタイプに非同調な者の受容を進め、トランスジェンダーやレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、ジェンダーステレオタイプに非同調な人々に対する差別や社会的プレッシャーに対処するためには、今後も継続的な取り組みを行っていく必要がある。

結論

本研究では、薬物療法や手術によるジェンダー移行の後に脱トランスした個人について記述した。ジェンダー移行の後に脱トランスした人の割合は不明だが、調査参加者のほとんどは、ジェンダー移行を担当した医師に脱トランスしたことを伝えていないことから、過小評価されている可能性が高い。脱トランスしたすべての人の経験を単一のナラティブでは説明できないため、この集団を大雑把に語ろうとしないように注意するべきである。脱トランス者の中には、出生時の性別の自認に戻る人もいれば、ノンバイナリー自認になった(またはその自認を維持する)人もおり、トランスジェンダーを自認し続ける人もいる。ジェンダー移行を後悔している脱トランス者も後悔していない脱トランス者もいる。またROGD仮説を裏付けるような経験を報告する脱トランス者もいた。彼らは、「ジェンダー違和(GD)は思春期以降に始まった」、「メンタルヘルスの問題、トラウマ、仲間、ソーシャルメディア、オンラインコミュニティ、さらには自分がレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルであるという事実を受け入れることの難しさなどが、ジェンダー違和(GD)発症やジェンダー移行願望に関係している」などと回答していた。生得的女性と生得的男性の脱トランス者は、ベースライン特性や経験の面で違いがあるように思われ、これらの相違点はさらに究明されるべきである。ジェンダー違和(GD)とジェンダー移行のアウトカムに関する今後の研究では、各人の経験と軌跡の多様性を考慮すべきである。脱トランス者の長期にわたる医学的・心理学的ウェルビーイングのために、どのような支援や治療を提供するのが最適かを判断するためには、さらなる研究が必要である。脱トランスに関する知見を利用することで、ジェンダー違和(GD)に対する理解を深め、ジェンダー移行を考えている個人の評価、カウンセリング、インフォームドコンセントのプロセスにより良い情報を提供するべきである。

Notes:注釈

1. YouTubeで「detransition(脱トランス)」という単語を検索し、アップロードされた日付でフィルタリングを行うことができる:https://www.youtube.com/results?search_query=%22detransition%22&sp=CAI%253D22

2. 個人の性別(「出生時に割り当てられた性別」、「生物学的性別」、「生得的性別」、「出生時の性別」、「性別」などを含む)を説明するために使われる用語に関する議論は、決着がついたとは言い難い。「出生時に割り当てられた性別」という表現を使用すべきだと主張する専門家もいるが、この用語は誤解を招きやすく、出生時や出生前に起こる出来事との整合性が取れないとと主張する専門家もいる(Bouman et al., 2017、Byng et al., 2018、Dahlen, 2020、Griffin et al., 2020)。この議論の不安定さを裏付けるように、私が「生得的性別(natal sex)」という用語を選択したことについて、私は本稿の査読者から相反するコメントを受け取った。ある査読者からは、私が他の用語ではなく「生得的性別」という表現を選んだ正当な根拠を述べるよう求められた。また別の査読者からは、私が「生得的性別」の表現を使用することを支持すると言われた。私が「生得的性別(natal sex)」と「出生時の性別(birth sex)」を好んで使用しているのは、正確かつ客観的であるためである。さらに、「生得的性別」と「出生時の性別」は、「生物学的性別」と「出生時に割り当てられた性別」の中間の、合理的かつ丁寧な妥協の言葉であるとも考えられる。

参考文献

参考文献は論文の末尾に掲載

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