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小児期のジェンダー移行(性別移行:gender transition)と心理社会的幸福(well-being):ジェンダーに食い違いのあるシスジェンダーの児童(cisgender gender-variant children)との比較

F-1-004

原文

Wong, W. I., van der Miesen, A. I. R., Li, T. G. F., MacMullin, L. N., & VanderLaan, D. P. (2019).

Childhood social gender transition and psychosocial well-being: A comparison to cisgender gender-variant children.

Clinical Practice in Pediatric Psychology, 7(3), 241–253.

https://doi.org/10.1037/cpp0000295

抄録

目的

ジェンダー違和(性別違和: gender dysphoria)のある子どもたちの幸福(well-being)を促進するための最善の実践について関心が高まっている。社会的ジェンダー移行(例:名前、代名詞、衣服の変更)は、出生時に割り当てられた性別と一致しないジェンダーであることを望むジェンダーに食い違いのある児童(gender-variant children)に利益をもたらす可能性がある。本研究では、社会的にジェンダー移行した児童とシスジェンダー(すなわち、出生時に割り当てられた性とジェンダー・アイデンティティが一致している)でジェンダーに食い違いがある児童が経験する心理社会的課題を検討した。

方法

ジェンダーに食い違いがある児童に関して、児童行動チェックリストまたは類似の尺度を用いて心理社会的幸福を報告している公表されたサンプル(N=266)のデータを使用した。シスジェンダーでジェンダーに食い違いがある児童(cisgender gender-variant: CGV)と、ジェンダー・アイデンティティを支持されていると記述された社会的に移行した児童を比較する際に、統計的ブートストラップ法を用いて出生時に割り当てられた性別、年齢、ジェンダーの食い違いの程度をコントロールした。CGVのサンプルの中で、小児期のジェンダーの食い違いに対する親の態度について調べ、またこれらの親の態度や仲間との関係と児童の心理的幸福感との相関関係についても分析した。

結果

心理社会的幸福がジェンダー移行の状態に関連して変化するというエビデンスはほとんどなかった。CGVの児童の親は一般的に小児期のジェンダーの食い違いを受け入れていたが、不十分な仲間関係だけがこのような児童におけるより低い心理的幸福感を予測していた。

結論

社会的に移行した児童は、CGVの子どもと同程度の心理社会的課題を経験しているようである。小児期の社会的ジェンダー移行が幸福感に対してどのような影響を及ぼしうるかを評価するにはさらなる研究が必要であるが、本研究は、ジェンダーに食い違いがある児童の心理社会的課題の経験は、移行の状態にかかわらずモニタリングが必要であり、仲間との関係が特に重要とみなすべきかもしれないことを示唆している。(PsycInfo Database Record (c) 2020 APA, all rights reserved)

SEGMによる解説

研究者らは、心理的苦痛を改善し幸福感(well-being)を向上させる手段として、小児期の社会的ジェンダー移行(SGT:social gender transition)の有用性を評価した。研究者らは、児童行動チェックリスト(CBCL:Child Behavior Checklist)を用いて、社会的移行(名前、代名詞の変更、異性としての生活)を行ったジェンダー違和児童(gender-dysphoric children)と、ジェンダーに非同調(gender non-conformity)であることを表現することを認められながらもジェンダー・ロール(gender role)を維持したままであった児童の心理的機能を比較した。

研究者らは、2つのグループ間でCBCLのどの領域にも差がないことを発見した。この領域には、内面化行動と外面化行動の両方が含まれる:

・不安
・抑うつ
・身体的不定愁訴
・社会的問題
・思考の問題
・注意障害
・規則違反
・攻撃的行動

課題の唯一の予測因子は、移行の状態よりもむしろ、不十分な仲間関係であった。

この最近の研究は、思春期前の社会的移行(SGT:social gender transition)に関する知識基盤を次のように要約している:「逸話的に指摘されているように、小児期のSGTが心理的苦痛の減少と関連している可能性はある。しかしながら、小児期のSGT前後の心理的幸福を評価する縦断的デザインを採用した研究は、現在に至るまで存在しない。小児期のSGTが心理的幸福に及ぼす長期的な影響も不明である。...小児期のSGTに関するこれまでの研究はすべて、親や自己報告による簡単なスクリーニング手法から得られる、限定的で偏った可能性のある情報に依存している。

著者らは次のように結論づけた

「心理社会的幸福がジェンダー移行の有無によって異なるという証拠はほとんどなかった。...心理的幸福度の低下を予測したのは、不十分な仲間関係だけだった。…社会的に移行した児童は、CGV(ジェンダーに食い違いはあるが社会的に移行していない)児童と同程度の心理社会的課題を経験しているようである。」

SEGMの平易な言葉による結論

本研究では、過去に発表されたデータ(Olsonらの2016年の研究を含む)を再分析した結果、社会的移行が心理的転帰を改善するというエビデンスが見つからなかった。むしろ、仲間関係の質が重要な要因であることが判明した。

社会移行の利点は実証されてはいない。リスクについては解明されていないが、それにはジェンダー違和(gender dysphoria) の持続や、さらなる健康リスクを伴うその後の医学的・外科的介入のリスク増加が含まれる。

移行を断念した児童(以前は大多数が断念していた)にとって、元のジェンダー・ロール(the original role)に戻らなければならないというストレスは著しいものであるかもしれない。