ジェンダー医療研究会:JEGMA

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ドイツの臨床においては社会的移行状況ではなく仲間関係や家族機能が心理学的機能を予測する

F-1-006

原文

Sievert, E. D., Schweizer, K., Barkmann, C., Fahrenkrug, S., & Becker-Hebly, I. (2020).

Not social transition status, but peer relations and family functioning predict psychological functioning in a German clinical sample of children with Gender Dysphoria.

Clinical Child Psychology and Psychiatry,

135910452096453. https://doi.org/10.1177/1359104520964530

抄録

研究では、社会的なジェンダー移行(例:名前、代名詞、服装の変更)がトランスジェンダーの児童やジェンダー違和(性別違和: Gender Dysphoria: GD)と診断された児童に利益をもたらすかどうかについて、決定的な結果は得られていない。

本研究では、GDと診断された児童の臨床サンプルにおいて、社会的移行状態と心理学的機能の結果との関係を調査した。心理学的機能(児童行動チェックリスト; CBCL)、社会的移行の程度、一般的家族機能(GFF)、不十分な仲間関係(PPR)を、ハンブルク・ジェンダー・アイデンティティ・サービス(GIS)の54人の子ども(5~11歳)の親の報告によって評価した。重回帰分析により、性別(gender)、年齢、社会経済的地位(SES)、PPR、GFFをコントロールした上で、社会的移行状況が心理学的機能に及ぼす影響を検討した。親は、ドイツの対応する年齢の標準集団と比較して、すべてのCBCL尺度において著しく高い得点を報告した。仲間の問題と家族機能の悪化は、心理学的機能の低下と著しく関連していた一方で、社会的移行の程度は結果を明確には予測しなかった。したがって、社会的移行によるジェンダー肯定がGDの子どもにとって有益であるという主張は、今回の結果から裏付けられなかった。むしろ本研究は、カウンセリングの中でジェンダー移行の新たな可能性を探ることとは別に、仲間や家族によって提供される個々の社会的支援の重要性を強調している。

SEGMによる解説

これは、ハンブルクGIDSを受診している54人のGD児童(5~11歳)の臨床サンプルを対象とした研究である。社会的移行の状況と心理学的機能の結果との関係を調べるために、親へのアンケートが用いられた。その結果:社会的移行状態(日常生活のさまざまな領域で望ましいジェンダー・ロールで生活していること)は、心理学的機能とは有意な関連を示さなかった。むしろ(家族や仲間からの)社会的支援全般が心理学的な結果に影響を及ぼしている。ただしこの社会的支援とは必ずしも児童のジェンダーの状態を肯定するという意味ではない。また、この研究は横断的な研究デザインであったため、これらの結果から因果関係のある結論を導き出すことはできなかった。

SEGMの平易な言葉による結論

本研究では、社会的性別移行が子どもの心理学的機能に有益であるという結果は得られなかった。むしろ、一般的な家族機能と仲間関係の質が重要な要因であることが明らかにされた。