ジェンダー医療研究会:JEGMA

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BBCラジオインタビュー:キャス博士に訊く、キャス・レビューついて。

女性司会者:英国の18歳未満を対象としたジェンダー・アイデンティティ・医療サービスに関する報告書(レビュー)によると、医学的介入に関する調査不足と著しく弱いエビデンスに失望させられているといいます。小児科医ヒラリー・キャスの報告書は、こうも語っています。専門家たちは、彼女がジェンダーに関する議論の有毒性と呼ぶもののために、自分たちの意見をオープンに議論することを恐れてきた、と。

ジェンダー・アイデンティティに疑問を抱く子どもたちは、自閉症や精神衛生上の問題などのスクリーニングを含む総合的な評価を受けるべきだと彼女は主張しているのです。一方、イングランドのNHS(英国民保健サービス)は、すでに変更を加えていると述べています。


男性インタビュアー:ありがとうございます。こちら8時27分前。
待ちに待った、子どものジェンダー医療に関するキャスの報告書の結論は、医学界に響き渡るシンプルで手厳しい一文を含んでいます。ほとんどの若者にとって、医学的な治療法はジェンダーに関連した苦痛に対処する最良の方法ではないと、ヒラリー・キャス博士は述べているのです。

キャス博士はこうも付け加えました。子どもたちはジェンダー・アイデンティティというレンズを通してだけでなく、一人の人間として見られなければならない、
それなのに、不安やうつ病のような問題を抱えた若者たちが、NHSイングランドのジェンダー・アイデンティティ・サービスに安易に引き渡され、そして、そのような若者たちもまた、失望させられてきたのです、と。

幼少期にホルモン剤を投与することの長期的な影響についての研究が不足しているとキャス博士は述べています。

今日でも、スコットランドのNHSや民間のクリニックでは思春期ブロッカーが処方されています。キャス博士によれば、現代のジェンダー医学の争点となっているのは、しばしば非常に問題を抱えた少女たちだというのです。

キャス博士:過去10年から15年の間に若者の患者人口に大きな変化がありました。
過去約15年は、この診療所では主に出生時に男性と登録された子供の小児期患者を50人ほど診ていましたが、過去10年ほどで3,000人を超える若者に変わり、それは主に10代前半の出生時に女性と登録された若者で、おっしゃるとおり、非常に複雑な問題を抱えていることがよくあります。

インタビュアー:あなたから見て、そのような追加的な問題は適切に対処されたのでしょうか?

キャス博士:いいえ。何故なら、議論の有毒性のせいで、地域の医療サービス機関はジェンダー違和を訴える患者を診察することに非常に神経質になっていて、うつ病や不安症、あるいはおそらく診断されていない自閉症スペクトラム障害を抱える他の若者のためにするであろうことをせずに、彼らを回避することがよくあるのです。
そのため、患者はそのままジェンダー・アイデンティティ医療サービスに移される傾向にあり、そして、非常に長い待機リストの最後尾に並ぶことになるのです。
というのも、ジェンダー・アイデンティティ医療サービスでは、増加する患者の数と症状の訴えの複雑さに対応しきれなかったからです。

インタビュアー:有毒性、そして回避とおっしゃいますが、なぜ回避を?  トランスフォビアだと非難されるのを恐れて? その理由は何でしょう?

キャス博士:我々が初期に調査を行った時、臨床医たちは「時間がない、仕事が溜まっているんだ」と言うだろうと、私は予想していました。しかし、臨床医たちが本当に心配していたのは、ガイダンスがないこと、エビデンスがないこと、そしてトレーニングがないことでした。

また、あなたがおっしゃるように、他の子どもたちに対して行うような通常の査定を行った場合、必ずしもトランスフォビアであると非難されるとは限りませんが、若者のジェンダーをすぐに肯定することができないのではないかと臨床医たちは心配しています。

インタビュアー:思春期ブロッカーが安全に使用できるという証拠はありますか? 

キャス博士:いいえ、今のところ、使用しても絶対に安全だという十分な証拠はありません。
思春期ブロッカーは、思春期が早すぎるという全く別の症状の子供や、ある種の癌を患う大人にも使われています。しかし、これは思春期を抑制するという新しい使用法です。ブロッカーが脳の発達に長期的にどのような影響を与えるかは分かっていません、というのも思春期には脳の発達が急速に進むからです。

また、ブロッカーがジェンダーや性心理の発達の軌跡を変えてしまうかどうかも分かっていないのです。

インタビュアー:医学の世界では、未知のものが一つの分野で大量に使用されるというのは標準的なことなのでしょうか?

キャス博士:研究チームは臨床試験から始めましたが、臨床試験結果が出る前に日常的な処方に移行し、さらに幅広い若年層に処方するようになった時点で、エビデンスから逸脱しました。

インタビュアー:何故、そうようなことをしたとお考えになりますか?

キャス博士:研究チームは明らかに、この若者グループに対してベストを尽くしていると感じていたし、明らかに改善していると感じた若者もいたことでしょう。しかし、調査結果が発表されると、改善している若者もいれば、悪化している若者もいることが判明しました。それは驚くべきことではありません。というのも、研究チームが若い患者の幅広い問題に対処できていなかったからです。

人生を変える可能性のある治療を若者に施すなど、異例のことです。大人になったときにどうなるのかがわからないというのは特に問題で、この治療がどのような結果をもたらすかを知るべく、成人期まで追跡調査をしていないことが、「分からない」理由なのです。
これが、私が研究基盤を改善しなければならないと述べた理由です。

つまり、思春期ブロッカーや男性化・女性化ホルモンの投与を受けた若者だけでなく、そうでない若者にも何が起こるのか、心理療法がどのように役立つのかも、知る必要があるのです。

インタビュアー:先ほどキャス先生は、治療を求める子どもたちの初期段階と、おそらく最初は関わりたくないと思っていた家庭医(かかりつけ医)と、より広範な精神保健スタッフの存在についてお話しされました。キャス先生の見解と報告書によれば、タヴィストックと特にジェンダーアイデンティティ・クリニックに対する外部からの圧力があり、彼らはそれを喜んで受け入れ、特定の道へと押し進めていたとのことですが……。

キャス博士:そうです。つまり、関係者全員にさまざまなプレッシャーがかかっていたと思うし、どのような現場であれ、最前線にいる人たちは自分たちが正しいことをしていると感じていたと思います。つまり、私が話をした誰もが、自分たちは正しいことをしていると熱く信じており、誰も子どもたちに危害を加えようとはしていませんでした。

しかし、タヴィストックでの治療の難しさのひとつは、同じ治療を行っているセンターが国内にない場合、相談できる同業者がいないため、おそらく、反省が少ないことだと思います。

インタビュアー:とある20代のトランス女性と話をしたビデオを聴いていただきたいのですが、彼女が若かった頃、本当にダメージを受けたと感じた、診察の遅れについてです。どうぞ。

録音:結局、私はNHSの専門医の診察を受けるために4年間も待ち続けました。
とんでもなくイライラしたし、「ああ、18歳になる前に診るつもりはないよ」と言われてから民間の医療機関にまわされ、そこにお世話になるまでの期間は、私の精神衛生上、信じられないほど暗い期間でした。
それは、私がトランスする過程で経験した中で、1番最低な時期でした。
なぜなら、私は長い間ただ待たなければならなかったからです。その間に、男性の思春期のほぼ全過程を経験することになったんです。
その間、私はとんでもなく居心地悪く感じていました。自分を自分のように感じられず、いつも間違っていると感じていました。正確に自分らしくいられる気がしなかったんです。
それは純粋に、どうなっていくのか、何らかの治療を受けることもできないまま、長い間待たなければならなかったからなんです。

インタビュアー:キャス博士、何百人・何千人という子供たちが今やこのような状況に置かれており、イングランドのNHSでは、思春期ブロッカーを処方される可能性はなく、大したことは起こらないと言われています。

キャス博士:まず最初に、この話を伺って、気の毒に思い、胸が張り裂けそうになりました。そしてこのような話は他にもたくさんあると存じ上げております。まず第一に、NHSイングランドは、少なくとも最初のアセスメントを行うために、地域のサービスをサポートするための追加的なリソースを投入しています。

インタビュアー:それで十分だと思われますか?

キャス博士:これは資金の問題ではありません、労働力の問題なんです。
その大部分は、あらゆるバックグラウンドを持つ臨床医が、自分たちにはこのような若者たちを診るための転用可能なスキルがあることを認識できるように支援することなのです。
このような若者たちも私も、一般的に精神科の順番待ちが膨大であることを知っています。しかし、この特別なグループは、他の同じような悩みを抱えた若者と比べて不利な立場に置かれています。

インタビュアー:私が申し上げたいのは、提供されるものには、人の体を永遠に変えてしまうようなものは含まれていないか、あるいは避けようとする努力があるのではないかということなのですが…

キャス博士:そうですね、少数ですが、医療経路が適切な若者もいるはずです。そして、そうであればあるほど、私たちは、医療経路に進まない若者の、より広範囲な問題に対処できるのです。
医療経路が必要な若者の数が少なければ少ないほど、医療経路が必要な若者を早急に専門医の診療に臨む道に進ませることが容易になるんです。

インタビュアー:思春期ブロッカーを処方できる個人クリニックはまだあるんですよね?
誰もが同じ水準の治療を受けるべきであり、私がNHSで推奨しているようなレベルの診察を提供していない民間医療に懸念を持っています。
特に4年待ちという悲惨な体験談を聞くだけでも、医療経路を選ぶことは子供にとって最善の方法だとご両親が感じた理由は、十分に理解できます。家族が民間の道を進む場合、後にNHSに戻ることが何を意味するかについて家族にアドバイスを提供するよう私たちはNHSイングランドに依頼しました。

インタビュアー:これは医療スキャンダルなのでしょうか?

キャス博士:それは私以外の誰かが判断することだと思います。
私は、このような若者たちをより主流の精神科医療や小児科医療に復帰させ、彼らが将来十分な情報を得た上で決断を下せるよう必要なエビデンスを得るために、包括的なケアを提供する最善の方法を模索してきただけなのです。

インタビュアー:ヒラリー・キャス博士、どうもありがとうございました。

キャス博士:ありがとうございました。

インタビュアー:NHSが私たちに連絡をくれたことをお伝えしたいと思います。NHSは子どもや若者のための根本的に異なるジェンダー・サービスの確立に向けて大きく前進しているとのことです。そして、地域のNHSのリーダーたちに、18歳の誕生日に満たない若者に対する成人向けジェンダー・クリニックの初診予約を一時停止するよう要請する手紙を出したのだそうです。

出典:BBC Tobay4 (1時間33分頃より)

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