ジェンダー医療研究会:JEGMA

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WPATHファイル:ガードレールの解体/脱トランス者のトラウマを過小評価するWPATHメンバー - p.30~31


ガードレールの解体
 WPATHの注意に対する嫌悪感と精神医学のゲートキーピング(監視・制御)への嫌悪は、ファイルの中で明らかです。日付のないスレッドでは、ある心理療法士が、17歳の少女の健康な乳房を切断する前に、外科医が彼女からの2通の紹介状を要求したことについて、不満を表明しました。この心理療法士にとってこれは「余計な、余計なゲートキーピング」なのです。

 紹介状の要求は保険の手続きに過ぎないように見えるが、その返信の中でひとりのセラピストは、保険会社が「クライアントの状態」が時間の経過とともに変化していないという証拠を求めているのではないかと述べました。

 しかしながら、残りのフォーラムの参加者たちの回答は、この要求は不必要ゲートキーピングであるという合唱で、中には「臨床上補償範囲の決定に関して不要な行為を要求した」として保険会社を地元の州の規制当局に通報するべきだとするものさえありました。

 フロリダの「 they / them 」の代名詞を使うノンバイナリーのカウンセラーが、助言をくれました。 カウンセラーの彼女はセラピストに、自分は特に推薦状や紹介状などのレターを書くことについて経験があるといい、「今までの経験について興味があれば、喜んでお話しします」と言いました。「私はかなりの数のセカンドレターを書きましたし、未成年者についてのレターも書いたことがあります」と彼女は付け加えました。

 日付のない別のスレッドでは、「双極性障害と自閉症または統合失調感情障害」などの「深刻な精神疾患を持つ数人のトランスジェンダーのクライアント」を持つバージニア州のセラピストが、患者が手術の準備ができているかどうかを判断するためにどのような基準を使用すべきかについて、グループにアドバイスを求めました。彼女は特に、重篤な精神疾患を持つ「クライアント」が「術後のダイレーションのプロトコル」を順守できるかどうかを懸念していました。(訳注:ダイレーション:器具を用いた人工膣の拡張)

 カリフォルニア州のあるセラピストは、「ジェンダー肯定医療者として、私たちは常にハームリダクション(身体的悪影響の軽減)の観点を第一に考えなくてはいけない」と答えました。つまり「ジェンダー肯定医療を受けなかったら、これらの患者はどうなるのか、それを考えることも医学的にも必要である」。このセラピストは、患者が膣形成術や両側乳房切除術などの手術に同意する前に、精神疾患を「十分に管理」するというSOC7の要件を、個人的に「重視していない」と述べました。 実際、この考え方は、WPATHの公式な立場と一致していました。この要件はSOC8では削除されたからです。

 トランスジェンダー自認の生得的男性セラピストが議論に加わり、WPATHのSOC7によると、「レター・オブ・サポート」の主なる目的は患者のジェンダー違和の持続性を確認することであり、「必要な外科的医療を拒否することは(重度の精神病者であっても)患者の自律性を強く侵害する」と述べました。

 メンタルヘルスの専門家の関与を不必要と見なすようになったこの変化は、ホルモン投与開始前に2通の紹介状が必要であるとしたSOC5がスティーブン・レヴァイン博士によって作成された直後に、それを否定するHBIGDA当時のSOC6をリチャード・グリーン博士が作成したことから始まりました。レヴァイン博士は、手術後の後悔を最小限にするために、医療へのアクセスの周囲にガードレールを設置しようとしていましたが、WPATHはグリーン博士の時代から、これらの安全対策を解体する方向に邁進することになりました。

脱トランス者のトラウマを過小評価するWPATHメンバー
 ジェンダー肯定医療従事者は、性的特性変更治療の後悔率は非常に低いと常に主張してきましたが、これはひどく欠陥のある研究に基づいています(107,108,109)。ずさんで不十分な追跡調査のため、真の脱トランス率は不明ですが、最近の研究では上昇していることが示されています(110, 111, 112,113)。いくつかの小規模な研究は、脱トランスについて貴重な洞察を提供しています(114, 115, 116,117)。また、ジェンダー肯定医療によって受けた被害について声を上げる若者も増えています(118, 119,120)。しかし、フォーラムに参加しているWPATHのメンバーの多くは被害の否認の姿勢を崩さず、多くの若者が現在直面している一生の後悔を否定したり、矮小化したりしています。

 ワシントンDCの心理学者が、2年以上テストステロンを服用し、「混乱し怒りに満ちた」17歳の脱トランスした少女が、「洗脳されていた」と感じたとの投稿に対して、何人かのWPATHメンバーが返信しました。 脱トランスも患者にとっては「ジェンダーの旅」の新たなステップに過ぎず、必ずしも後悔を伴うものではないというのです。 この利己的な論理では、ジェンダー肯定的モデルを実践する臨床医が診断や治療の決定において間違っていることはあり得ません。

 後悔と脱トランスを「ジェンダーの旅」の一部とする概念は、ジェンダー肯定医療の臨床医を批判や説明責任から解放しています。ジェンダー肯定医療の領域では、医療従事者が後悔と脱トランスを「ジェンダーの旅」の一部として肯定する限り、潜在的な誤りや誤った判断は許容されます。

 また、WPATHのメンバーは、しばしば若者に責任転嫁します。 別の心理学者は、まだ高校生で脱トランスを決意した女性患者について、その少女は「(彼女が)自分がハンドルを握って、ここまでたどり着いたと認識している」といいました。

 WPATHのバウワーズ会長は、この心理学者の意見に同調し、すべての医療には一般的にジェンダー移行よりもはるかに高い後悔率が存在し、「患者は医学的決定、特に永続的な影響をもたらす可能性のある決定に対して責任を持ち、積極的に責任を負う必要がある」と述べました。 バウワーズは、「立法府とメディアは、豊胸手術、卵管結紮術、フェイスリフトの責任は追及しない」と付け加えました。ここでバウワーズは、性的特性変更治療は、フェイスリフトや豊胸手術のような選択的な美容整形手術であり、卵管結紮術のように生涯にわたる不妊を引き起こすことが多いことをうっかり認めています。

 しかし、未成年者はこれらの「永続的な影響をもたらす可能性」について理解する能力を持っていないため、理性的な同意を医療関係者へ与えることができません。リークされたパネルディスカッションは、WPATHメンバーがその事実を認識していることを証明しています。 また多くの場合、重度の精神疾患を患っている人も、治療のリスクと生涯にわたる影響を理解し必要な決断をする能力を持っていません。このような状況では、患者を誤診し、適切なインフォームドコンセントを確保する義務を怠った医療従事者に責任があります。他の医学分野では、誤診に基づいて治療に同意したことで患者が非難されることはありません。

 さらに、米国では、健康な思春期の少女が卵管結紮術に同意することを医療専門家が許可する可能性は極めて低いといえます。 これは、多くのティーンエイジャーが「子どもは欲しくない」と頑なに主張するかもしれないが、若者が成長し、優先順位が変わるにつれて、そのような感情は時間の経過とともに変化する可能性が高いことが広く認識されているからです。 パネルディスカッションでのメッツガーの「犬に噛まれたわけじゃないでしょう。(手術を決断したのは自分でしょう?)」という発言は、彼と彼の仲間のWPATHパネリストがこれを完全に理解していることを証明しています。

 もし、10代の若者が突然、精管切除術や卵管結紮術を受けられるようになったり、形成外科医が精神障害の治療として豊胸手術やフェイスリフトを青少年に実施したりすれば、メディアも議会もこの問題を熱心に追及するに違いありません。

107) Bustos, V. P., Bustos, S. S., Mascaro, A., Del Corral, G., Forte, A. J., Ciudad, P., Kim, E. A., Langstein, H. N., & Manrique, O. J. “Regret after Gender- Affirmation Surgery: A Systematic Review and Meta-Analysis of Prevalence.” [In eng]. Plast Reconstr Surg Glob Open 9, no. 3 (Mar 2021): e3477. https://doi.org/10.1097/gox.0000000000003477

108) “At What Point Does Incompetence Become Fraud?” Genspect, 2022, https://genspect.org/at-what-point-does-incompetence-become-fraud/

109) Dhejne, C., Öberg, K., Arver, S., & Landén, M. “An Analysis of All Applications for Sex Reassignment Surgery in Sweden, 1960-2010: Prevalence, Incidence, and Regrets.” [In eng]. Arch Sex Behav 43, no. 8 (Nov 2014): 1535-45. https://doi.org/10.1007/s10508-014-0300-8

110) Cohn, J. “The Detransition Rate Is Unknown.” Archives of Sexual Behavior 52, no. 5 (2023): 1937-52. https://doi.org/10.1007/s10508-023-02623-5. https://dx.doi.org/10.1007/s10508-023-02623-5

111) Irwig, M. S. “Detransition among Transgender and Gender-Diverse People—an Increasing and Increasingly Complex Phenomenon.” The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism 107, no. 10 (2022): e4261-e62. https://doi.org/10.1210/clinem/dgac356

112) Hall, R., Mitchell, L., & Sachdeva, J. “Access to Care and Frequency of Detransition among a Cohort Discharged by a Uk National Adult Gender Identity Clinic: Retrospective Case-Note Review.” [In eng]. BJPsych Open 7, no. 6 (Oct 1 2021): e184. https://doi.org/10.1192/bjo.2021.1022

113) Boyd, I., Hackett, T., & Bewley, S. “Care of Transgender Patients: A General Practice Quality Improvement Approach.” [In eng]. Healthcare (Basel) 10, no. 1 ( Jan 7 2022). https://doi.org/10.3390/healthcare10010121

114) Littman, L. (2021). Individuals Treated for Gender Dysphoria with Medical and/or Surgical Transition Who Subsequently Detransitioned: A Survey of 100 Detransitioners. Archives of Sexual Behavior, 50(8), 3353-3369. https://doi.org/10.1007/s10508-021-02163-w

115) Mackinnon, K. R., Gould, W. A., Enxuga, G., Kia, H., Abramovich, A., Lam, J. S. H., & Ross, L. E. (2023). Exploring the gender care experiences and perspectives of individuals who discontinued their transition or detransitioned in Canada. PLOS ONE, 18(11), e0293868. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0293868

116) Littman, L., O’Malley, S., Kerschner, H., & Bailey, J. M. (2023). Detransition and Desistance Among Previously Trans-Identified Young Adults. Archives of Sexual Behavior. https://doi.org/10.1007/s10508-023-02716-1

117) Vandenbussche, E. (2022). Detransition-Related Needs and Support: A Cross-Sectional Online Survey. Journal of Homosexuality, 69(9), 1602-1620. https://doi.org/10.1080/00918369.2021.1919479

118) Reddit, 2023, https://www.reddit.com/r/detrans/

119) “‘I Literally Lost Organs:’ Why Detransitioned Teens Regret Changing Genders.” New York Post, 2022, https://nypost.com/2022/06/18/detransitioned-teens-explain-why-they-regret-changing-genders/

120) “Why This Detransitioner Is Suing Her Health Care Providers.” Public, 2023, https://public.substack.com/p/why-this-detransitioner-is-suing?utm_source=%2Fsearch%2Fmichelle&utm_medium=reader2

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