ジェンダー医療研究会:JEGMA

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WPATH ファイル:不審なほど低い後悔率 - p.32~33


不審なほど低い後悔率
「すべての医療には一般的にジェンダー移行よりもはるかに高い後悔率が存在する」というバウワーズのコメントは、WPATHのメンバーに思考停止させているようです。この発言は、表面的には真実のように見えます。「ジェンダー肯定」手術後の後悔率に関する最近のシステマティック・レビューでは、乳房切除術および/または陰茎形成術を受けた生得的女性の後悔率は1%未満、膣形成術を受けた生得的男性では2%未満であるとしています(121)。 しかし、本レビューの研究は、追跡不能率が高く、追跡期間が極端に短く、後悔と脱トランスの定義が異常に狭く、レビューに異常な数の誤りが含まれているという事実を抜きにしても、また手術後の重篤な合併症の発生率が高く、将来パートナーと親密な関係を形成する能力に莫大な影響を与えることを考えると…… これらの数字は疑わしいほど低いといえます(122)。

 オランダの思春期抑制実験の最も初期の参加者の一人のケーススタディは、なぜそうなるのかのヒントになるでしょう。 この研究は、生得的女性の35歳の時点でのジェンダー肯定医療に対する満足度と心理状態を記しています(123)。この患者は、ホルモン療法や性的特性変更手術を受けたことを後悔していませんが、生殖器の外見をひどく恥じていること、抑うつを経験したこと、パートナーと長期的な関係を維持することが困難であったと報告しています。 同じ患者が20歳のとき手術後わずか2年後に実施された過去の追跡調査では、高いレベルの満足度が記録され、この生得的女性患者はメトイディオプラスティ(小陰茎形成術)の結果に満足していました(124)。メトイディオプラスティとは、肥大したクリトリスから小さな疑似ペニスを構築する外科的処置です。出生時の女性がテストステロンを摂取すると、クリトリスは恒久的に肥大します。  

 このケーススタディは、ジェンダー医学の分野における後悔率に関する自己申告の問題点を浮き彫りにしています。性的特性変更処置に着手する人々は、自分の体と和解するために、健康、生殖能力、性機能、健康な肉体の一部を犠牲にします。好ましくない結果、重篤な合併症、パートナーと親密な関係を築く能力への明らかな悪影響を経験しているにもかかわらず、多くの人は、自分の決定が間違いではなかったと自分と他人の両方に言い聞かせることに固執する可能性が非常に高いのです。後悔を認めることを躊躇するこの態度は、自分の選択の結果に直面することへの躊躇から生じているのかもしれません。

 実際、初期のオランダの臨床医は、このことをよく知っていました。 オランダが性特性修正介入の提供を開始してから約15年後に実施された、当時トランスセクシュアルと呼ばれていた患者を対象とした最初の追跡調査では、研究者が「実際の生活状況の改善が常に観察されたわけではない」と指摘しているにもかかわらず、参加者の大多数が幸せで後悔していないと報告しています(125)。1988年の論文で研究者らは、ホルモンや外科的介入を受けた参加者がこういう反応をするのは、認知的不協和を減らすためで、「すべてが無駄だったという考えを受け入れることができない。彼らが自己申告する幸福感は、歪んだ希望的観測なのかもしれない」と仮説を述べています。

 すでに示したように、自己申告だけに頼るのではなく、社会的機能やメンタルヘルスの状態などの要因を測定する研究では、肯定的な結果がはるかに少なくなります(126)。

 陰茎切断よりも人工膝関節置換術を後悔する人が多い場合や、ジェンダー肯定乳房切除術よりも乳がんリスクのために予防的乳房切除術を受けたことを後悔する女性が多い場合、科学的真実を追求する医療機関なら危険信号を感じるはずです(127,128,129,130)。これらの後悔率の低さは、性的特性変更手術がジェンダー違和を解決する治療であるというエビデンスではなく、再調査の対象となるべきだということを示しています。

121) Ibid (n.107)

122) Ibid (n.108)

123) Cohen-Kettenis, P. T., Schagen, S. E., Steensma, T. D., de Vries, A. L., & Delemarre-van de Waal, H. A. “Puberty Suppression in a Gender-Dysphoric Adolescent: A 22-Year Follow-Up.” [In eng]. Arch Sex Behav 40, no. 4 (Aug 2011): 843-7. https://doi.org/10.1007/s10508-011-9758-9

124) 記載無し

125) Kuiper, B., & Cohen-Kettenis, P. (1988). Sex reassignment surgery: a study of 141 Dutch transsexuals. Arch Sex Behav, 17(5), 439-457. https://doi.org/10.1007/bf01542484

126) Ibid (n.68)

127) Mahdi, A., Svantesson, M., Wretenberg, P., & Hälleberg-Nyman, M. “Patients’ Experiences of Discontentment One Year after Total Knee Arthroplasty- a Qualitative Study.” [In eng]. BMC Musculoskelet Disord 21, no. 1 (Jan 14 2020): 29. https://doi.org/10.1186/s12891-020-3041-y

128) Olson-Kennedy, J., Warus, J., Okonta, V., Belzer, M., & Clark, L. F. “Chest Reconstruction and Chest Dysphoria in Transmasculine Minors and Young Adults.” JAMA Pediatrics 172, no. 5 (2018): 431. https://doi.org/10.1001/jamapediatrics.2017.5440

129) Borgen, P. I., Hill, A. D., Tran, K. N., Van Zee, K. J., Massie, M. J., Payne, D, & Biggs, C. G. “Patient Regrets after Bilateral Prophylactic Mastectomy.” [In eng]. Ann Surg Oncol 5, no. 7 (Oct-Nov 1998): 603-6. https://doi.org/10.1007/bf02303829

130)Bruce, L., Khouri, A. N., Bolze, A., Ibarra, M., Richards, B., Khalatbari, S., Blasdel, G., et al. “Long-Term Regret and Satisfaction with Decision Following Gender-Affirming Mastectomy.” JAMA Surgery 158, no. 10 (2023): 1070-77. https://doi.org/10.1001/jamasurg.2023.3352

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