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WPATH ファイル:一時的なアイデンティティの恒久的な医療化/WPATHは医療における信頼の連鎖を断ち切った - p.33~36


一時的なアイデンティティの恒久的な医療化
 未成年者に責任を転嫁するだけでなく、WPATHメンバーは脱トランスに与えた被害を他のやり方でも過小評価しようとします。 2021年11月6日、ある医学生は、フォーラムで脱トランス者に関する2021年の研究を共有したメンバーに対して、不可逆的な性転換手術をタトゥーや軽微な整形手術になぞらえて、「ジェンダーや医療オプションへの関心は、個人ごとに時間の経過とともに変化しても問題ない」ことを強調することが重要であると主張しました(131)。学生は続けて、「ジェンダーについての新しい知識を学習し、そちらの医療を介して実現したことは称賛されるべきであり、私たちはそれを過ちと見なす必要はありません」と提案しました。

 しかし、これらの患者の多くが受ける処置は、タトゥーや鼻の美容形成よりもはるかに重篤です。混乱して怒りに満ちた17歳の脱トランス者に関する投稿への返信で、バルセロナの婦人科医は、膣形成術の逆転手術を求めている脱トランス希望の患者もいると説明しました。 この手術では、偽膣を外科的に切除し、患者の前腕や大腿部から剥がした皮膚を使用して機能しない疑似ペニスを作成するファロプラスティ(陰茎形成術)を行います(132,133)。これが称賛されるべきといえるかは疑問です。

 多くの脱トランス者は、ジェンダー肯定医療がもたらす不可逆的な変化に対して、激しい怒りと悲しみを感じています。彼らは、自分の体の一部を失い、子供を産んだり、母乳で育てたりといった能力を奪われたことを嘆いています。 

 オンタリオ州の家庭医は、流出したファイルの中で唯一、デトランス者の経験を尊重し、バウワーズと彼女の同僚のデトランス者に対する無礼な解釈にあえて異議を唱えているWPATHメンバーです。彼女は、デトランスした患者は全員若い女性で、「身体的および性的アイデンティティが発達途中で流動的であった」時期に、恒久的な方法で体を変えることを許されたとグループに語りました。大半は併存疾患を有しており、その疾患は十分に対処されておらず、不可逆的な医学的介入に追い立てられたのです。 医師は、このグループの患者を「苦しみ、喪失、悲しみでいっぱいになっている」と表現しました。

 かなりの数のWPATHメンバーが、医療従事者がこれらの若者を誤診したのではいと示唆することによってこの悲惨な試練を軽視しているという事実、また彼らを不必要で侵襲的な処置にさらした事実は、WPATHが倫理的誠実さを欠いていることの証拠です。

 実際、WPATHの中には、一部のティーンエイジャーが同性愛をジェンダーアイデンティティの問題と勘違いしていることを認めているメンバーもいます。 パネルディスカッションでマッセイ氏は、年若い患者は自分のセクシュアリティを探求した後、「ジェンダーアイデンティティの問題を明確にする」べきだと語りました。

 これもまた、WPATHのジェンダー医学アプローチのリスクです。徹底的なサイコセラピーを省略したり、あるいは単に子どもに成長や成熟を許さず、その代わりに思春期の若者をただちに医療のベルトコンベアーに乗せてしまう。WPATHに所属する医療提供者は、ゲイやレズビアンの10代の若者が自分のセクシュアリティを理解し受け入れる機会を得る前に不妊手術を行うという、新しい形のコンバージョンセラピー(矯正療法)に手を染めてしまったのです(134)。 ジェンダークリニックや多数の研究からのデータは、ジェンダー違和に苦しむ子供や思春期の若者が同性愛者の大人になる可能性が非常に高いことを示しており、脱トランス者に関する最近の研究も同様に、かなりの割合が同性愛者であることを示しています(135, 136, 137, 138, 139, 140)。

 WPATHの非倫理的で非科学的な傾向は、フォーラム内で脱トランスが解釈されているありかたにも明らかです。 2021年11月10日、フォーラムのリサーチ・コーディネーターは、脱トランスという考え自体が「シスジェンダーであることをデフォルトとし、トランスを病理として強化する」ため「問題がある」と提起しました。 この若いコーディネーターは、「ジェンダーを時間の経過とともに変化する可能性があるものとして捉え、意思決定をめぐる感情が時間の経過とともに変化することを理解した上で、その瞬間にしたい選択をする人々をサポートする方法を考え出す方が理にかなっている」と主張しました。

 しかし、その考え方は、外科医が健康な身体の部分を切除する任務を負う場合、特にそのような処置が、不安定でまだ不安定であると認識されているアイデンティティに若者の身体的形態を一致させることを目的にしている場合、深刻な倫理的問題を提起します。

 さらに懸念されるのは、トラウマ反応としてトランスジェンダーのアイデンティティを採用している若者がいる可能性です。そして WPATHに所属する専門家は、これらの苦悩を抱える人々を恒久的に医療に取り込もうとしています。 プリシャ・モズレーとイザベル・アヤラが起こした医療過誤訴訟では、幼い頃に性的暴行の被害に遭ったトラウマが、トランスジェンダーのアイデンティティを採用する一因として説明されています。 WPATH内では、メンバーはこの可能性を認識していますが、それでもなお、グループの公式な立場は、患者が望むことであれば、直ちに肯定し、薬や手術を提供することです(141)。また、性自認や医学的介入に重点を移すと、これらの若年層の根底にあるトラウマに効果的に対処するために必要な本質的な治療から注意がそらされる可能性があるため、このアプローチにはオポチュニティコスト(ある行動を選択することによって失われる、他の選択可能な行動のうちの最大利益=機会費用)の問題もあります。

 2021年9月のフォーラムのスレッドでは、あるカウンセラーが「トラウマはトランスジェンダーの患者によく見られる」と指摘し、また他のカウンセラーもこの傾向を目撃していることが示されました。 パネルディスカッションでは、メッツガー氏と彼の同僚が、モズレーやアヤラのように、「不幸でトラウマ的な性的事件」の後にトランスジェンダーを自認し始めた若者を話題にしています。 マッセイは、関与したセラピストが「若者が暴行とジェンダーアイデンティティを区別するのを助ける」ことができるという希望について語っていますが、「若者と一緒に仕事をしていると、暴行やある種の性的強制または不快な経験さえ打ち明けないことがある」ため、この作業の難しさを指摘します。

 マッセイは、「優れたセラピストでさえ」、子供の心にあるすべてを引き出すことはできない、それが制限されることもあるだろうと述べています。 「大人でさえ、それを表面に出さないこともあるので、自己認識や彼らの人生に影響を与える可能性のあるすべてのものを捉えようとするのは、かなりハードルが高いこともある」と。

WPATHは医療における信頼の連鎖を断ち切った
 医療の世界には「信頼の連鎖」という概念があります(142,143)。多忙な医療従事者の時間は限られているため、すべての病気のあらゆる側面(診断、予後、治療)を徹底的に調査することは現実的ではないため、彼らの医師としての専門的な教育が堅牢な科学的証拠に基づいていることを信頼できなければなりません。 医療が効率的に機能するためには、医師は、診療ガイドラインを発行する人々が、治療の安全性と有効性に関するすべての関連する証拠を熱心かつ厳密に評価していると確信する必要があります(144)。

 WPATHは、ジェンダー医療における信頼の連鎖を断ち切りました。 WPATHは自らを科学的と見せかけていますが、実際には、十分に研究された「医学的に必要な」ケアを装って、危険で実験的で美容的な処置を促進するアドボカシー・グループ(活動家の団体)です。 WPATHは、ジェンダーを肯定するケアに関するすべての知識の源として掲げられていますが、その推奨の科学的根拠は非常に弱いです。 この団体は、都合よく「SOC:ケア基準」と呼ぶガイドラインの作成を通じて、医師を法的責任から守り、性的特性変更処置に対する保険適用を確保するためだけに存在しています。

 外見上は専門の医療団体であり、査読付きジャーナルと科学文献の文献目録を備えているため、外部の医学界はWPATHの「SOC:ケア基準」に信頼を置いています。 WPATHとそのメンバーは、米国小児科学会(AAP)、米国心理学会(APA)、および内分泌学会のポジション・ステートメント(立場表明)と実践ガイドラインにも影響を与えています。 

 さらに、親や脆弱な患者は、小児科医、内分泌科医、メンタルヘルスの専門家の推奨事項を信頼しています。 その人たちは自らがWPATHに所属しているか、WPATHの影響を受けた専門家団体に、自分の体について苦痛を感じている子供に対処する方法についてのガイダンスを求めているのです。

131) Ibid (n.114)

132) Djordjevic, M. L., Bizic, M. R., Duisin, D., Bouman, M. B., & Buncamper, M. “Reversal Surgery in Regretful Male-to-Female Transsexuals after Sex Reassignment Surgery.” [In eng]. J Sex Med 13, no. 6 (Jun 2016): 1000-7. https://doi.org/10.1016/j.jsxm.2016.02.173

133) “Phalloplasty for Gender Affirmation.” Johns Hopkins Medicine, 2023, https://www.hopkinsmedicine.org/health/treatment-tests-and-therapies/phalloplasty-for-gender-affirmation

134) “Current Debates.” Gender Identity Development Service, 2023, https://gids.nhs.uk/gender-identity-and-sexuality/#:~:text=For%20young%20people,males%20or%20females

135) Ibid (n.70)

136) Ibid (n.2)

137) Ibid (n.114)

138) Vandenbussche, E. “Detransition-Related Needs and Support: A Cross-Sectional Online Survey.” Journal of Homosexuality 69, no. 9 (2022/07/29 2022): 1602-20. https://doi.org/10.1080/00918369.2021.1919479

139) Drescher, J., & Pula, J. (2014). Ethical issues raised by the treatment of gender-variant prepubescent children. Hastings Cent Rep, 44 Suppl 4, S17-22. https://doi.org/10.1002/hast.365

140) Cantor, J. M. (2020). Transgender and Gender Diverse Children and Adolescents: Fact-Checking of AAP Policy. J Sex Marital Ther, 46(4), 307-313. https://doi.org/10.1080/0092623x.2019.1698481

141) “Active and Resolved Cases.” Campbell Miller Payne, 2023, https://cmppllc.com/our-cases, Isabelle Ayala and Prisha Mosley’s Cases.

142) “Heidi Larson, Vaccine Anthropologist.” The New Yorker, 2021, https://www.newyorker.com/science/annals-of-medicine/heidi-larson-vaccine-anthropologist

143) Herman, R. (1994). RESEARCH FRAUD BREAKS CHAIN OF TRUST. The Washington Post. https://www.washingtonpost.com/archive/lifestyle/wellness/1994/04/19/research-fraud-breaks-chain-of-trust/ffd456e7-b8f7-496e-9b02-6c41c30dfd0a/

144) O’Malley, S. & Ayad, S. Pioneers Series: We Contain Multitudes with Stephen Levine. Podcast audio. Gender: A Wider Lens Podcast2022. https://gender-a-wider-lens.captivate.fm/episode/60-pioneers-series-we-contain-multitudes-with-stephen-levine, 34:53.

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