ジェンダー医療研究会:JEGMA

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WPATHファイル・WPATHは民衆を欺いた - p.10~15


WPATHは民衆を欺いた

 WPATHは、ジェンダー肯定医療、つまり二次性徴抑制剤(思春期ブロッカー)、異性化ホルモン、自認したトランスジェンダー・アイデンティティに自己の肉体を合わせる外科手術を含む治療を未成年者が利用できることを提唱しています。この暗黙の前提は、思春期の若者がこれらの治療の意味を十分に理解でき、その両親が法的なインフォームド・コンセントを提供できるという事実です。

 トランスジェンダーの医療の最前線に立つこの団体は、トランスジェンダー・アイデンティティを自認する若者のための臨床ガイドラインは、「適切に評価された未成年者に対する医療介入を支持する」と主張します(45)。

 WPATHは医療従事者に、DSM-5の「gender dysphoria:ジェンダー違和(性別違和)」よりも、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD-11)の「gender incongruence:ジェンダー不合(性別不合)」の用語を使うように推奨しています。ICD-11の診断が精神障害ではなく「性的健康に関連する状態」に分類されているからです。精神障害の診断は、トランスジェンダーのアイデンティティにさらなるスティグマを与えるというのがWPATHの主張です。

 ジェンダー不合の診断は、ジェンダー違和の診断よりもさらに簡単に得られます。それに必要なのは、患者が内面の自己意識と生物学的性別との間の著しい不一致を経験していることだけです。それゆえの苦痛はジェンダー不合の診断には不要で、それぞれの患者の「自己実現のゴール」を医学的治療の目標とみなすことができます。

 しかし、WPATHは公的には、未成年者とその家族が漠然とした内面の自己意識に基づいてホルモン治療や外科的治療に同意できると主張しますが、会員のなかには私的な場でそんな同意は不可能だと認めています。WPATHに所属する医療従事者は、密室で、自分たちの治療はその場でのそれぞれの判断によるもので、子どもには治療の内容やリスクは理解できず、同意プロセスは倫理的ではないと告白しています。つまり、WPATHは公衆に対して不誠実であり、自覚的に不透明な運営をしているのです。  

WPATHは、ホルモン療法がもたらすものを、子供たちが理解していないことを知っている
WPATHのStandards of Care 8(SOC 8:ケア基準第8版)は、「ジェンダー不合」の診断を受けた青少年が「治療にインフォームド・コンセント/同意できるのに必要な感情的および認知的成熟度を示す」限り、二次性徴抑制剤(思春期ブロッカー)、異性化ホルモン、および手術を受けることを推奨しています。

 しかし、2022年5月6日に開催された「アイデンティティ・エボリューション・ワークショップ」と題されたWPATHの内部パネルの Environmental Progress が入手したビデオ映像では、パネルメンバーは、若い患者からホルモン治療について適切なインフォームド・コンセントを得ることが不可能であることを認めています(46)。 

 パネルディスカッションでカナダの内分泌学者であるダニエル・メッツガー博士が、青少年から治療の同意を得る際に直面する課題について述べています。メッツガーは、ジェンダー医療の医師が「高校で生物学を学んだことのない人に、この種のことを説明していることが多い」と参加者に注意を促し、成人患者でさえ、これらの医療の効果について医学的にほとんど理解していないことが多いと付け加えました。  

 メッツガーは、若い患者はホルモン療法の身体的効果を選別できると思っており、顔の毛が生えるのは嫌だが声が低くなるのを望んでいる人や、乳房を発達させずにエストロゲンを摂取したい人もいるという。つまり、思春期の患者は人体の働きと治療経路の理解がきわめて不十分であることを意味しており、WPATHの専門家もこれを指摘しています。

「自分の望む効果だけを選ぶことはできない。それが生物学を学んでいない子供たちには理解できない。また、多くの大人もYを抜きにXだけを手に入れられると思っている。そんなことができるとは限らないのに」とメッツガー博士は要約しました。

 メッツガーは若い患者に「きみはノンバイナリーかもしれないが、ホルモンはバイナリーだ」といいます。「髭を生やさないと、低い声を得られない」とか、「エストロゲンを摂取して女性らしい自分を感じたければ、乳房がふくらむのは避けられない」と子どもだけではなく大人にも説明しなければならないといいます。

 子どもたちは自分たちの求めているホルモン療法に彼らの人生を一変する強力な効果があることを理解できないことについて専門家たちの間で意見が一致しました。著名なWPATHメンバーで、児童心理学者でSOC8の子どもの章の共著者であるダイアン・バーグは、子どもや青年が治療の効果を把握することは期待できないと述べ、その理由は「これらの医学的介入がどの程度彼らに影響を与えているかを理解するのは、子どもの発達の範囲外である」と述べています。  

 患者の未熟さはさらに例があげられ、「彼らは口では理解していると言う。だがその後、ああ、本当は顔に毛が生えることを理解していなかったのかと思わせるようなことを言う」とバーグ博士は続けました。

 しかし、公の場では、WPATHは決してこのことを認めません。WPATHが公の場で声明を出す稀な場合でも、医療的介入による性的形質修正(sex-trait modification interventions)は年齢に応じた必須の治療とされ、それに対する反対はトランスフォビアとしてしりぞけられます。  

 2023年5月、WPATH会長のマーシー・バウワーズ博士は、未成年者に対するジェンダー肯定医療の禁止に反対する声明を発表し、「反トランスジェンダー医療法は、子どもの保護ではなく、ミクロおよびマクロ規模でトランスジェンダーの人びとを抹消するためのものです」と述べています。「ジェンダー二元論という概念を強要しようとする、薄皮に包まれた暴力にすぎない」(47)。

 医師が子どもの思春期を阻止したり、不可逆的な異性化ホルモンを投与したりする前に、法的な同意をするのは親の責任ですが、親の中には治療プロトコルの効果を理解できるレベルのヘルスリテラシー(健康に関する教養)を持っていないと、バーグはパネルディスカッションで証拠を挙げ、現在の慣行は倫理的ではないことを認めています。

 「本当に気がかりなのは、明らかに承認したはずの医療介入について、両親が本当は理解していなかったことを私たちに言わないことです」とバーグは言います。彼女は、すぐに理解できなくても大丈夫だということを「正常化」し、患者に質問を促すことが解決策だと提案しています。そうすれば、バーグが「現在の慣行は倫理的ではない」と考える今のやり方ではなく「真のインフォームド・コンセント・プロセス」をジェンダー肯定医療者が遂行できるというのです。

WPATHは、子供が医療によって生殖能力を失うことに同意不能だと知っている
 さらに重要なインフォームド・コンセント・プロセスの侵害を、WPATHメンバーは告白しています。それは未成年者が不妊化する可能性のある治療プロセスに同意できるかという問題です。WPATHのSOC8は、医師が「妊孕性を失う可能性と、妊孕性を維持するための別の選択肢」を青少年の患者に若者に通知しなければならないと規定しています。思春期初期の少年少女が、不妊状態になる可能性のあるホルモン治療を受けられるという規定は、世界をリードするトランスジェンダー・ヘルス・グループであるWPATHが、未成年者は将来についてそのような決定を下す認知能力を持つと考えているということです。

 しかし、内部では、WPATHの著名なメンバーは、思春期の若者が決定の重大さを理解することは不可能であると告白しています。心理学者であり、最新のケア基準の思春期の章の共著者であるレン・マッセイ博士は、SOC8によると「妊孕性温存の選択肢について話すのは倫理的であり奨励される」と言い「二次性徴抑制剤(思春期ブロッカー)を服用している若者にとっても重要だ。なぜなら、これらの若者の多くは、精子や卵子を産生する生殖腺の発達を阻害するジェンダー肯定的ホルモン療法にそのまま進むからだ」と強調します。その失われる機能こそ、若い患者が「後でパートナーを得た場合、望むかもしれない生殖機能なのだから」と述べています。

 メッツガーの答えは「14歳の子供と妊孕性温存について話すのは理論的には可能だが、真っ白な壁に向かって話しているようなものだ。え、子供、赤ん坊、気持ち悪い、と言うだけだ」でした。  

 「よくある答えは『養子縁組すればいい』。で、どういうことかわかっているのか、たとえばそれにいくらかかるのかときいてみる。すると、『孤児院に行って赤ん坊をくれ、といえばもらえるんだと思ってた』みたいなことを言う」

 この発言に、ほかのパネリストは苦笑とうなずきで同意を表しました。これらのコメントは、ジェンダー肯定治療の結果として生殖能力を失うこと、年若い患者は自分たちが何を犠牲にしているのかを理解していないことをWPATHのメンバーが認識していることを示しています。患者は将来、自分の生物学的な子供が欲しいと思うかもしれないことを理解しておらず、養子縁組がどのようなものなのか、体外受精で赤ちゃんを妊娠することがどれほど困難であるかさえ理解していません。

 これらの私的なコメントは、WPATHの公的な立場とは正反対です。直近の、米国の未成年者に対するジェンダー肯定医療の禁止に反対するWPATH声明では、「圧倒的多数の若者にとってこれらの医学的治療の利益が不利益を上回っていることは……十分に論文等で証明されています。医療提供者は、若者の自己理解、ジェンダーアイデンティティ、および薬剤的/外科的介入(思春期前は不許可、同意なしには不許可)を十分な情報に基づいて理解していることを確認した上で、患者と共同で治療の決定をする、これは患者の将来の後悔を最小限に抑えるために非常に重要な役割を果たします」。しかし、WPATHのメンバーはこのレベルの理解がまさに不可能であることを知っており、WPATHの声明は不誠実です。  

 さらに、二次性徴抑制剤(思春期ブロッカー)を史上初投与されたオランダの患者グループにも、生殖不能について重大な後悔を示す研究が既に存在することをメンバーは認識しています。

 しかしメッツガーは、小児内分泌学会の最近の会議でオランダの研究者が提示したデータについて「オランダの研究者が何かデータを、若年者がトランス後に示した後悔…のようなデータを示しているが、後悔なんてよくあることだから、驚くに値しない」と言っています。

 メッツガーが驚かない理由は、自分の患者にも後悔の念を抱いている人がいるのを見ているからでしょう。

 「20代半ばに達するまで子どもたちをたくさん見ていると、あれ、犬に噛まれたわけじゃないでしょう?(手術を決断したのは自分でしょう)と思うときがある。彼らに『素晴らしいパートナーを見つけたばかりで、今は子供が欲しい』とか言われたときに。だから、そういうのは驚くことではない」とメッツガーは言います。

 実際、メッツガーが言及していると思われる研究の予備的な調査結果は、数か月後の2022年9月にモントリオールで開催されたWPATHの国際シンポジウムで発表されました(48)。オランダの研究者チームは、二次性徴を抑制された若者の最初の長期研究の結果を発表し、メッツガーが示唆したように、 その結果は推奨できるものからかけ離れていたのです。

 ジョイス・アッセラー博士は「家族形成と生殖能力温存の重要性を振り返る」と題された部門で、二次性徴抑制による思春期早期の抑制とそれに続く異性化ホルモン療法と精巣または卵巣の外科的切除を受けた若者の27%が、現在平均年齢32歳で、生殖能力を犠牲にしたことを後悔していたり、あるいはオランダの研究者が言ったように、「不妊症を辛く感じ」たりしたことを明らかにしました。さらに11%は、不妊症についてどう感じているか答えられず、思春期に医学的移行に着手する前に卵子や精子を凍結する形で妊孕性温存を選択した人はいなかったが、生得的女性の44%と生得的男性の35%は、過去にさかのぼることができるなら、生殖能力の温存を選択すると回答しています。研究参加者の過半数(56%)は、子供が欲しいという欲求を持っているか、おそらく養子縁組によってすでに「この欲求を満たしている」と推測されます。

 後悔率27%でもその数字は過小評価されているかもしれません。アッセラーは、不妊症を「辛い」と回答しなかった一人の「辛いと思うことはできるが、少し遅すぎる。残念ながら、変えたくても変えられないのだから」という発言を例にあげました。また、この分野の他のほとんどの研究と同様に、この研究は追跡調査が不能になっている割合が大きく、適格者の50.7%が追跡調査に参加しなかったため、これらの若者のコホート(集団)の真の後悔率を知ることはできません。

 バーグは、生涯にわたる不妊症を理解しようと9歳の子どもが四苦八苦していることに「困惑している」と述べ、メッツガーは「ほとんどの子供たちは、そのことについて真剣に議論できる脳空間に住んでいない」と認めました。これは、「子供たちがその瞬間に幸せで、より幸せになる」ことを望んでいるWPATHの専門家を悩ませています。

 将来の妊孕性を犠牲にして、今この瞬間の子どもの苦痛の軽減を優先することは、かなり問題があります。しかしメッツガーの発言はさらに、WPATHのジェンダー肯定ケアは、前述の怪しげな目標さえ達成していないと示唆しています。メッツガーは、性的アイデンティティ(sexual identity)発達年齢前の9歳の子どもに二次性徴抑制剤(思春期ブロッカー)を投与するのは「褒められたことではない」と述べ、ジェンダー肯定医療が「シスジェンダーの同年齢の子が経験する思春期の前半から中期の性的なことを、これらの子供たちからある程度奪っている」ことを認めています。 

 思春期は、同年代の仲間に受け入れられることを切望するため、どんな若者にとっても難しい時期です。児童精神分析医のエリック・エリクソンは、思春期の第一の目標はアイデンティティを確立することであると述べ(49)、思春期を混乱と実験の時期と見なしました。エリクソンの研究に基づいて、カナダの発達心理学者ジェームズ・マーシャは「アイデンティティ・モラトリアム」という用語を作り出し、青年期の段階を、若者が単一の理想やアイデンティティを獲得する時期ではなく、探求の段階であると説明しました(50)。

 この重要な時期でのアイデンティティの発達は、人とのつきあいに大きく依存しており、孤立と孤独の経験は、まだ世界で自分の道を模索している若者にとって大きな苦痛です。そうなると、ジェンダー肯定医療が患者から思春期の経験を奪っているというメッツガーのコメントは、WPATHが青少年の社会的課題を緩和するどころか悪化させる可能性のある医療を故意に推進していることを示しており、つまり、莫大な費用がかかるこの医療介入は、子供たちを「その瞬間をより幸せにする」というメッツガーの怪しげな目的さえ達成できないことを意味します。

 さらに、WPATHの内部メッセージフォーラムのスレッドは、発達の遅れのある一部の青少年が思春期ブロッカーを投与されているという証拠を示しています。イェール大学医学部の医師助手兼教授は、発達遅滞のある13歳の若者がすでに思春期ブロッカーを服用しているが、異性化ホルモンに進むにあたっての理性的な同意を得ることができず「典型的な思春期の時間枠内に『SOC8』によって設定された感情的および認知的発達の基準」に達しない可能性があるのでどうすればよいかとアドバイスを求める投稿をしました。イェール大学の教授であり、現役の臨床医でもあるこの人物は、どの段階になればこの年若い患者は「ジェンダー肯定ホルモン療法」に進めるのか、それが倫理的に許されるのはいつなのかを知りたがっていました。

 ノバスコシア州の精神科医の答えは、「指針となる原則は、異性化ホルモン治療をする場合としない場合のどちらが害になるか考えることだろう」でした。このWPATHメンバーは二次性徴抑制を止めることを「害」と定義し、二次性徴抑制剤(思春期ブロッカー)を永遠に継続することはできない、いつかは性ステロイドホルモン投与に進まざるをえないとアドバイスしました。ペンシルベニア州のあるセラピストは、「知的障害のある人でも、他の手術なら同意できます」と返信し、元の投稿に重要な背景情報が欠けているのではないかと疑問を呈しました。 

 アルバータ大学の法学教授で活動家の人物が、イェール大学の教授がこの倫理的難問を解決するのに役立つ論文を提供しました。「患者の能力に関係なく、通常、患者自身ほど患者のアイデンティティの核心に迫る医学的決定を下すのに適した人はいない。性別は個人のアイデンティティと自己実現に密接に関係しているため、親は……複雑な医学的決定を下すのに患者本人より優れていることはめったにない」(51)。

 親は通常、トランスジェンダーではなく「シスジェンダー」であるため、「トランスジェンダーやジェンダー違和を深く理解することはめったになく、患者のジェンダーの主観性を深く理解することもない」と論文には書かれています。対照的に、患者は、発達遅滞のある青少年であっても、「自分自身のジェンダーの主観性を深く理解」しており、ほとんどの場合、リスクや不妊の可能性についても「限定的ではあるが、じゅうぶんに」理解しているとあります。

 したがって、この論理によれば、トランスジェンダーを自認する未成年者は、重度のメンタルヘルスの問題や発達の遅れを抱えている人であっても、「方程式の両側を評価する(どちらがより害になるのか評価する)」ことができ、つまり、生涯にわたる結果をもたらす複雑な医学的決定を下すのに親よりも有利な立場にあることを意味します。

 この政治活動家は、医学の訓練を受けていないが、WPATHフォーラム内の会話に頻繁に登場します。しかし実はこの意見は、発達の遅れのある青少年が実験的なジェンダー肯定医療に理性的同意ができると認めるWPATHの公式見解とまさに同一です。2022年の公式声明で、WPATHは自閉症、その他の発達の違い、またはメンタルヘルスの問題を併存する青少年に対して二次性徴抑制剤(思春期ブロッカー)や異性化ホルモンの処方を遅らせたり停止したりすることを「不公平で、差別的で、不合理」と定義しました(52)。

 思春期の若者から発達中の性的アイデンティティ(sexual identities)を奪うことは、WPATHの専門家パネルに別の問題を提起します。メッツガーが指摘するように、このコホートの性的衝動は抑制されており、つまり「自慰行為の仕方を学んでいない」のです。しかし、これらの医療従事者は、妊孕性温存のプロセスを理解するためのその段階まで発達していない患者と妊孕性温存の選択肢について話し合う任務を負っています。生得的男性の場合、精子の凍結には、少年が射精できるという発達段階に達していることが必要です。特に男の子の場合、早期介入とは、つまり内分泌ホルモンが肉体を生殖可能にする前に二次性徴を抑制することを意味します。

 バーグはこの問題を認識しており、「ある意味では、生殖能力保持に必要な行為は、若者のその時点での性的発達の限界を超えているかもしれない。それでも、それをしなければならないんだ」とグループに語っています。 

 従来の小児科では、この種の会話は腫瘍学でのみ行われていました。妊孕性温存は、特定の性分化疾患(DSD)やその他のまれな症状を持つ子供に提供されますが(53)、医原性不妊症につながるのはがん治療とジェンダー肯定医療のみです。つまりこれらは、青少年の生殖能力を消し去る治療プロトコルです。ジェンダー肯定医療が登場する前は、未成年者に不妊手術をする唯一の正当な理由は、生命を脅かす可能性のある癌の診断のみでした。  

 2020年にアイデンティティ・エボリューション・ワークショップのパネリスト2人が共同執筆したWPATHの公式声明の中で、世界をリードするトランスジェンダー・ヘルス・グループのWPATHは、「一般的に、メンタルヘルスと医療の専門家は、青少年/家族の診断を行い、これらの若者の感情的および心理的健康を促進するための医療介入が適切であり、若者の特定のメンタルヘルスと医療ニーズを満たすことを保証する」と主張しています(54)。

 「その結果、思春期の発達と家族のダイナミクスを理解するための経験と訓練を受けた専門家は、特定の臨床症状の背後にある根本的な要因を理解する態勢を整えています。子どもの最善の利益は、責任ある認可を受けた提供者にとって常に最優先事項です」とWPATHは述べています。

 上記の宣言を、一般の人々が耳を傾けていないと思うときにWPATHのメンバーがもらす発言と比較してみてください。トランスジェンダーの権利活動家であり、WPATHの元会長、声明の共著者の一人であるジェイミソン・グリーン氏は、多くの患者は内分泌科医の診察を受けることもなく、代わりに「トランスジェンダーのケアについて必ずしも熟知していないかかりつけ医を通じてホルモンを処方されている」とパネル(委員会)で語りました。 

 グリーンは、これらのかかりつけ医は「患者に寄り添おう」と思っているが、ジェン ダー医学の分野は「新しく」「議論に満ちた」ものなので、患者はよく理解できない と説明します。初めてケアを受ける高学歴の成人でさえ、インフォームドコンセントのフォームにざっと目を通し、深く理解することなしに「どこに署名すればいいのですか。 だって今がチャンスなんだから掴まなきゃ」と言うのです。

 このコメントは、医療とメンタルヘルスの専門家のチームが若い患者を慎重に評価していると主張するWPATHの公式声明と完全に矛盾しています。そして、これはホルモン治療の際だけに起こることではありません。グリーンは、人生を変えるような手術に同意する患者についても同じ意見を述べています。

 「人々は手術を恐れることが多いので、手術に関する他の人の体験談を読みたがる。それでも詳細を見逃したり、単に読むのが怖いという理由だけで、自分にとって最も重要な情報を見逃したりする」とグリーンは説明しました。

 

 

49)  Erikson, E. H. (1968). Identity: youth and crisis. Norton & Co.50) 

50)  Kroger, J., & Marcia, J. (2011). The Identity Statuses: Origins, Meanings, and Interpretations. In (pp. 31-53). https://doi.org/10.1007/978-1-4419-7988-9_2

51)  Ashley, F. (2023). Youth should decide: the principle of subsidiarity in paediatric transgender healthcare. J Med Ethics, 49(2), 110-114. https://doi. org/10.1136/medethics-2021-107820 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35131805/

52)  WPATH, ASIAPATH, EPATH, PATHA, and USPATH Response to NHS England in the United Kingdom (UK). (2022).https://www.wpath.org/media/cms/Documents/Public%20Policies/2022/25.11.22%20AUSPATH%20Statement%20reworked%20for%20WPATH%20Final%20ASIAPATH.EPATH.PATHA.USPATH.pdf?_t=1669428978

53)  Rodriguez-Wallberg, K. A., Marklund, A., Lundberg, F., Wikander, I., Milenkovic, M., Anastacio, A., Sergouniotis, F., Wånggren, K., Ekengren, J., Lind, T., & Borgström, B. (2019). A prospective study of women and girls undergoing fertility preservation due to oncologic and non-oncologic indications in Sweden-Trends in patients’ choices and benefit of the chosen methods after long-term follow up. Acta Obstet Gynecol Scand, 98(5), 604-615. https://doi.org/10.1111/aogs.13559

54)  Ibid (n.45)

著作権 Environmental Progress

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・著作者:The WPATH Files — Environmental Progress

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