ジェンダー医療研究会:JEGMA

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WPATHファイル:その場その場で実験的な医療をする医師 − p.25~26

その場その場で実験的な医療をする医師

 すでに述べたように、WPATHは、ジェンダーに関連した苦痛を経験している未成年者に対して規制を欠いた実験的医療を提唱しています。トランスジェンダー青少年への二次性徴抑制剤(思春期ブロッカー)の投与には、安全性と有効性についても信頼できるエビデンスはありません。しかし、ファイルには、WPATHのメンバーが厳密な科学ではなく、その場その場で即興的かつ実験的な医療を行っていることを示すさらなる証拠があります。

 例えば、生得的男性と女性の双方の患者がホルモン療法の影響で経験する生殖器痛の軽減についてのスレッドに寄せられるアドバイスは、どれも経験や推測にすぎません。テストステロンを3年間服用した後、骨盤内炎症性疾患(PID)で緊急治療室での治療を必要とした若い生得的女性に関するスレッドで、ニューヨークの看護師は、エストロゲンクリームが「効かなくなったよう」なので、持続的に黄色い分泌物が出ているといいます。「エストレース(訳注:エストロゲン製剤)の錠剤かクリーム、それでうまくいった人はいますか?」と、看護師は科学文献を調べる代わりにフォーラムに質問しました。 

 返信には、クリームが数人の患者に効果があったらしいという経験、また何人かのトランス自認の生得的女性は、自分の症状を和らげるのに役立ったレメディー(訳注:科学的に治療効果が否定されたホメオパシーという療法において治療薬と称されるもの)について語っています。 ミシガン州の家庭医は、2人の生得的女性のオーガズムにともなう痛みを和らげるには鎮痙剤を投与するのが効果あったこと、特にオーガズムの30〜60分前に薬を服用するのが肝心だとフォーラムに語っています。  

 しかし、それらの経験は科学とはいえません。フォーラムの誰も、これらの医原性の痛みを緩和するための、エビデンス基づく推奨事項を示した科学文献へのリンクを提供できませんでした。

 その理由は、信頼できる科学がないためです。2021年の関連文献のレビューでは、「トランスジェンダー医学の分野は比較的新しく、テストステロン療法の効果についてはほとんど知られていない」と述べられていますが、テストステロン療法を受けている生得的女性は、乾燥、痒み、膣挿入(性交または医療検査)による出血、性交疼痛症(性交中の痛み)など、閉経後と同様の膣萎縮の症状を経験することが多いと指摘しています。著者らは、これらの症状が「生活の質(QOL:クォリティ オブ ライフ)に相当な影響」があり、局所的なエストロゲンベースの治療が必要になる可能性があることを認めていますが、トランス自認の生得的女性に対する「このアプローチの有効性はまだ論文になっていない」のです(91)。

 さらに悪いことに、2023年の研究では、テストステロンの使用は生得的女性の性欲を亢進させると同時に、性交中の痛みを増加させ、参加者の60%以上が性行為中の性器の痛みや不快感を報告していることがわかりました。研究者らは、トランス自認の生得的女性の大多数が性行為中に「外陰・膣」の痛みを経験することを指摘し、「この酷いマイナスを考えると、この集団に対する効果的で許容可能な治療を開発することが急務である」と結論付けました(92)。

 トランス自認の生得的男性の一部が「ホルモン療法後の勃起に伴う著しい痛み」を経験する理由と、その痛みが膣形成術後も持続する可能性があるかどうか、ある内分泌科医が質問したスレッドでは、回答はまたも曖昧で各自の経験にすぎませんでした。WPATHのメンバーは、不快感は組織の萎縮や陰茎皮膚の菲薄化、予期しない勃起などの要因の可能性があると推測しています。また何人かのメンバーは、この懸念を患者に決して話さなかったことを認めました。トランス自認で生得的男性のカウンセラーは、自分もこの症状を経験したが、陰茎切断によって解決したと語りました。

「私の推測(私は医者ではないので、あくまで推測です)では、痛みは陰茎の勃起組織に関連しており、膣形成術中にその組織を切除することで解決できるのではないか」とそのカウンセラーは言いました。

 別のスレッドでは、臨床ナースが、「男性化ホルモン療法」を求めているノンバイナリー自認の生得的女性患者について、グループに質問ました。患者は、前立腺肥大症(BPH)と男性型脱毛症の治療に使用される5α-還元酵素阻害薬であるフィナステリドを服用して、「ボトム・グロウス」を防ぐことができるのかと。

 「ボトム・グロウス」とは、テストステロンの使用によるクリトリスの恒久的な巨大化を指す言葉です。これはひどい痛みと過敏症を引き起こす可能性があります(93)。この回答は再び憶測の大合唱であり、この目的での薬物の実験的使用を裏付ける科学文献を提供する人は誰もいません。 マサチューセッツ州のある医師は、「他の人がクリトリスの増大を阻止するためにそれを使用したか興味がある」と述べ、マンチェスターの家庭医も患者にこの薬を要求されたが、その用途でのこの薬の使用を裏付けるエビデンスを見つけることができなかったと述べました。「どんなリソース、証拠、アドバイスでもいただければ幸いです」と。

 実際、フィナステリドは、テストステロンを服用している女性患者の男性型脱毛症を防ぐ治療選択肢としてSOC8に記載されています。 しかし、「クリトリスの増大と顔や体毛の発達を損なう恐れがある」ので使用に際しては注意することと記されています。

 リークされたパネルディスカッションでも、外科医のセシル・フェランド博士が、WPATHのメンバーに、生得時女性にテストステロンを「投与量を減らす」する実験をしていると語るなど、即興的で独創的な治療例がたくさんありました。 博士によると、これらの生得的女性患者は「月経の停止」を望んでいるが、男性化は望んでいないと説明しています。 フェランドの言によると、20代の若い生得的女性は「男性的にはなりたいものの、完全に男性化したくはないんです」と。 このジェンダー肯定治療外科医は、スケジュールIIIの規制薬物を実験的に使用することで、この若い生得的女性の「自己存在」と「幸福感」が改善するとグループに伝えました。

 実験されているのは大人だけではありません。マッセイは、混乱した若い患者が、同じように混乱した医療従事者によって治療を受けているという話をしています。 この子供は約2年間思春期ブロッカーを服用しており、小児内分泌科医はもう少しそれを持続したいと望んでいます。「その子は揺れている。顔に毛が生えるのは嫌だ」しかし、月経については確信が持てず、「乳房の発達、胸の発達は、その彼ら、themとかいう代名詞を使う子にはショックなんですよ」とマッセイは言います。

 「では、ブロッカーを服用し続けることと、子供を内因性エストロゲンに戻すことのどちらにメリットがあるのでしょうか? それとも、低用量のテストステロン治療に進む方が良いのですか? それはいつの時点で?」と混乱したセラピストはききました。

 「だから、その子供が髭は嫌だが、胸が大きくなることは構わないかもしれない。いずれにせよ乳房の切除手術を受ける予定があるんだから。こういう複雑な状況にいる患者をどのように支援するかにあたっては、クリエイティブになることが必要かもしれないね」 とマッセイは締めくくりました。しかし、自分の子供に、混乱した医師がその子の人生を変えるような医療介入をする際に「クリエイティブ」になることを望んでいるような親がどこの世界にいるでしょうか。

 メッツガーは、13歳の子供に異性化ホルモンを投与することは「旅のようなものだよ」と表現し、その子の主治医は「それに合わせるしかない」と言います。彼は、10代の患者に対する異性化ホルモン投与に関しては患者にまかせる、予約した診察に来るたびにこれからホルモンをどうしたいか訊きながら調整しているといいます。「子供たち、特にノンバイナリーの子供たちは、時とともに変化する」と述べ、彼らはしばしば、最初に考えていたほど男性的にはなりたがらなくなる。「彼らは、生理などがなくなるようなハッピーな用量があり、それに満足している」と彼は続けました。 このように子供にハンドルを握らせるのは奇妙に思えるかもしれませんが、患者が独自の、そしてしばしば変化する「自己実現の目標」を達成できるようするWPATHの肯定的ケアモデルと完全に一致しています。

 しかし、ジェンダー肯定医療従事者が治療中の患者で実験を行っているという明確な証拠があるにもかかわらず、 WPATHの公式見解は、これらの治療法はエビデンスに基づいているというものです。 興味深いことに、WPATHはSOC8で「実験的」という用語の使用を意図的に控えています。 その一方で、それを裏付けるエビデンスがないことを認めています。

 例えば、思春期の章では、ジェンダーアイデンティティが生まれた時から決まっているのか、「発達過程」の一部であるのか疑問については、 著者らは、「将来の研究は、多様なコホートグループで長期間にわたって実施されれば、ジェンダーアイデンティティの発達により多くの光を当てることができるだろう」とその点がまだ不確実なことを認めています(94)。言い換えれば、ジェンダーアイデンティティが生まれつきであるという考えや、薬物や手術により若者の体を恒久的に変化させることを正当化する科学はありません。 したがって、治療プロトコル全体は「実験的」ですが、実際の実験には対照群と入念なフォローアップが含まれるため、その低いハードルさえ満たしておらず、 その実験に必須の前提のどちらも、WPATHのジェンダー肯定医学の分野には存在しません。注目すべきは、思春期の性的特性変更治療のエビデンスについての現在までの欧州でのシステマティック・レビューは、この治療法は実験的であると結論付けている点です。

 さらに、WPATHは、この実験が未成年者だけに限定されていないことを認識しています。SOC8の成人の章で、著者らは「この章の基準は、ケアに対する要件と不必要な障壁を減らすために、SOC7から大幅に改訂されました。今後の研究で、このモデルの有効性が探求されることが期待されます」と述べています(95)。

 生得的女性にテストステロンを投与した際の望ましくない副作用を予防する目的でのフィナステリドの使用の可否を論じた前述のセクションで、著者らは「トランスジェンダー集団における5α-還元酵素阻害薬の有効性と安全性を評価する研究が必要である」と結論付けています。このような「実験的」と同義の同様の言い回しは、SOC8の至る所で見られます。「実験的」という用語を意図的に避けているのは、実験的な医療が健康保険の対象外であるからです。WPATHのSOC8の主目的の1つは、保険の適用範囲を確保することであり、指導的トランスジェンダー・ヘルス・グループのWPATHは、このことを最良の医療行為の遵守よりも優先しています。

91) Krakowsky, Y., Potter, E., Hallarn, J., Monari, B., Wilcox, H., Bauer, G., Ravel, J., & Prodger, J. L. “The Effect of Gender-Affirming Medical Care on the Vaginal and Neovaginal Microbiomes of Transgender and Gender-Diverse People.” [In eng]. Front Cell Infect Microbiol 11 (2021): 769950. https://doi.org/10.3389/fcimb.2021.769950

92) Tordoff, D. M., Lunn, M. R., Chen, B., Flentje, A., Dastur, Z., Lubensky, M. E., Capriotti, M., & Obedin-Maliver, J. “Testosterone Use and Sexual Function among Transgender Men and Gender Diverse People Assigned Female at Birth.” [In eng]. Am J Obstet Gynecol (Sep 9 2023). https://doi.org/10.1016/j.ajog.2023.08.035

93 Wierckx, K., Van Caenegem, E., Schreiner, T., Haraldsen, I., Fisher, A., Toye, K., Kaufman, J. M., & T’Sjoen, G. (2014). Cross‐Sex Hormone Therapy in Trans Persons Is Safe and Effective at Short‐Time Follow‐Up: Results from the European Network for the Investigation of Gender Incongruence. The Journal of Sexual Medicine, 11(8), 1999-2011. https://doi.org/10.1111/jsm.12571

94) Coleman, E., Radix, A. E., Bouman, W. P., Brown, G. R., De Vries, A. LC., Deutsch, M. B., Ettner, R., et al. “Standards of Care for the Health of Transgender and Gender Diverse People, Version 8.” International Journal of Transgender Health 23, no. sup1 (2022): S45. https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/26895269.2022.2100644

95) Ibid (n.94 p.33)

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