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WPATHファイル:重度の精神疾患患者にさえ人生を変える医療介入への同意を可能にした - p.44~47

 重度の精神疾患患者にさえ、人生を変える医療介入への同意を可能にした。 
 ファイルで議論されている患者のなかには、性的特性変更処置を受けることを決意したときに健全な精神状態ではなかった人もいます。つまり、将来の健康と性機能への長期的な影響を理解し検討できたかどうかは疑わしいということです。

 いくつかのメッセージスレッドは、WPATHのメンバーが精神的に不安定な人々にホルモン療法や手術への同意を認めていることを示唆しています。日付のない投稿で、ノバスコシア州ハリファックスの臨床看護師は、非常に複雑なメンタルヘルスの問題を抱える患者に言及しました。 その患者の症状には、PTSD、大うつ病性障害(MDD)、観察された解離、および統合失調症の典型的症状も含まれました。看護師は、患者はホルモン剤の投与を熱望しているが、精神科は延期を勧めているとグループに伝えました。

 「私の診療は、完全にインフォームド・コンセント・モデルに基づいていますが、このケースは私を困惑させました。何が正しいのか、心中で葛藤があります」と看護師は言いました。

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のダン・カラシッチ博士は、WPATHのSOC8のメンタルヘルスの章の主執筆者ですが、彼は看護師の葛藤という言葉に、首をかしげたようです。カラシッチ博士はこうは言いました。
「当惑する理由が分かりません。単に精神疾患があるからというだけで、ジェンダー違和が持続し、同意する能力があり、ホルモン投与開始のメリットがリスクを上回る場合、ホルモン投与開始の権利が妨げられるべきではありません」と。

 精神疾患があることが、患者が医療処置に同意できないということを自動的に意味するわけではないというカラシッチの主張は正しい。しかし、このような状態の患者が、不可逆的な異性化ホルモンの長期的な影響を合理的に判断できるかどうかは疑問です。 また、これらのホルモンが患者の性機能に及ぼす前述の悪影響を考えると、健康な人であっても、利益がリスクを上回るかどうかは疑問です。精神疾患に苦しむ人々は、しばしば長期的な恋愛関係を築くのに苦労します。ホルモン療法は身体に多大な医学的負担をかけ、性機能を損ない、 すでに苦しんでいる精神を病んだ人々の生活をより困難にします。

 しかし、ファイルの中では、カラシッチの意見はメンバーの支持を得ており、前述のカリフォルニアのセラピストは、DID、MDD、双極性障害、統合失調症の患者に「HRT(ホルモン補充療法)をやって問題なかった」ということや、精巣摘出術がホームレスの生活に「大きな変化」をもたらしたことを報告しました。精巣摘出術は、精巣の外科的切除です。 しかし、繰り返しになりますが、長期的なフォローアップがなければ、これらの成功したという主張が正しいかどうかを知ることは不可能です。

 WPATHファイルには、解離性同一性障害(DID)に苦しむ患者について議論している他のセラピストがいます。これは以前に多重人格障害(MPD)として知られていましたが、そのような患者の性的特性変更処置への同意についてです。1980年代と1990年代のMPDの流行は、本質的に医原性、つまり、誤った指導を受けたセラピストによって生み出され、広まりました。訴訟の重圧のもとスキャンダルが明るみになってから、疾患名がMPDからDIDに変更されました。そのように診断されることも、大幅に減少しました。 しかし、最近では勢いを取り戻して復活し、TikTokが感染の重要な媒介となっています。またWPATHメンバーの中には、DIDの「変化する(alter)」アイデンティティも、トランスジェンダーのアイデンティティとともに肯定すべきものとして受け入れる者もいます(192)。

 2017年、「複数の」アイデンティティを肯定することの重要性について、カラシッチはWPATHの米国支部であるUSPATHの会議でプレゼンテーションを行いました(193)。その中で、この著名なWPATH精神科医は、ホルモンや手術による性的特性変更処置を受けたDID患者のケーススタディを詳細に語りました。

 1人の患者は「ジェンダークィア」を自認し、「フラットフロント(flat front)」取消し手術(nullificaton surgery)を受けた生得的男性でした。それは、性器を切断して、滑らかでセックスレスな外観を作成するものです。この男性は双極性障害と「アルコール使用障害」を患っていましたが、抗アンドロゲンホルモン遮断薬であるスピロノラクトン、続いてエストラジオール、つまり合成エストロゲンで治療されました。カラシッチによると、患者には7つの人格があり、そのうち2つは「アジェンダー(無性)」で、1つは女性でした。「人格達は手術について同意していました」と、カラシッチは聴衆に保証しました。

 もう一人のDID患者は27歳の男性で、「ジェンダークィア・システム」を自認していました。システムとは、1つの身体を共有する複数の異なる人格のことです。幼少期に自閉症と診断されたこの患者には、85人の「別人格:headmates」がいて、主な「前面:front」の人格は女性でした。この患者は、乳房の成長を防ぐ薬と一緒にエストラジオールを服用しており、25歳で精巣摘除術を受けていました。

 カラシッチは聴衆に、トランスジェンダーと複数人格を同時に自認する患者を過去に何人か診たことがあると語り、それは自分の「複数人格恐怖症ではない精神科医」としての評判によるものだと述べました。これが、WPATHがSOC8のメンタルヘルスの章の主執筆者として任命するのが適切であると感じた専門家のレベルです。

 モントリオールで開催されたWPATHの2022年国際シンポジウムで、研究者チームは、トランスジェンダーと「複数人格」アイデンティティの合併に関する研究の予備的な調査結果を発表しました(194)。研究チームは、性的特性変更のためのホルモン投与や手術について、何百もの人格を持ち、多くが異なるジェンダー・アイデンティティを持つ患者から、インフォームド・コンセントを得るという複雑な問題に取り組みました。その研究で扱ったレッドウッズという人は自分の「トランスボディ」の中に9人の複数の人格が存在するといい、ジェンダー違和の診断とDIDの診断の一つしか選ばざるを得なかったとき、患者が直面する困難については、「医療従事者が両方同時に存在できないと誤解していたため」起きたと説明しました。 

 研究チームは、確固たる結論には至りませんでしたが、トランスジェンダーと複数人格の両方のアイデンティティを肯定することを推奨しました。これにより「ジェンダーと複数人格の多幸感」を得られるかもしれないと。また別々の人格はアプリを使って互いに会話し、ホルモンや手術による性的特性変更処置の合意を得るのも可能だという提案もありました。この主任研究者は、WPATHファイル2021年9月付けのスレッドで「複数人格を自認する人々の堅牢なコミュニティをつくること」と「複数人格を肯定する」ことの必要性を説いています。彼は「メンタルヘルスと医療提供者が肯定的なケアを提供できるように、このトピックについてより多くのトレーニングが必要だという一般的なコンセンサス」が存在すると述べました。  

 WPATHフォーラムでは、「すべての人格が同じジェンダーアイデンティティ(性自認)を持っているわけではない」場合、DIDの「トランス患者」をどのように管理するかについてメンバーが苦闘しており、ノースカロライナ州のある心理学者は、「HRT(ホルモン補充療法)の影響を受けるすべての人格に、それによる変化を認識し、同意させることが不可欠」であると強調しました。

 「倫理的には、すべての人格から同意を得なければ、真の同意を得ていないことになります。そして、いずれかの人格がHRTや手術が最善の利益にならないと判断した場合、後で訴えられる可能性もあるのです」とその心理学者は述べました。この精神科医の回答は、WPATHファイル全体の中で倫理について言及しているわずか2つのうちの1つでした。

 別のセラピストは、紹介状で患者のDID診断について嘘をついたことを認め、代わりに「複雑性PTSD」としたのは、それならば外科医がDIDほど奇異に思わないだろうという理由でした。しかし、彼女はまた、彼女がホルモン治療に紹介した2人のDID患者が、今は後悔していることをこう告白しました 。「ホルモン投与を始めるという彼らの決断は、トラウマとDIDに影響されており、そしてセラピーをより多く受け理解の深まった今は、ホルモンを始める前にもっと深く考えるべきだった、と彼らは思っています」と。

 これら2件の後悔事例は、「ジェンダー」を優先し、苦痛の源を明らかにしようとする探索的心理療法を回避するWPATHのアプローチが、いかに医原性の害と、のちの後悔のリスクを患者に与えているかを示しています。

 前述のマッギン外科医は、未成年者に20件の膣形成術を行った外科医ですが、そこで議論に加わり、DIDの患者に2件の「外陰膣形成」手術と1件の両側乳房切除術を実施したことを報告し、3人とも「術後半年は大丈夫だった」と嬉しそうに述べました。

 しかし、繰り返しになりますが、6か月のフォローアップ期間では、手術の成功を確定するには十分ではありません。これほどの短期には、精神的な健康が改善するという誤った兆候があるかもしれません。しかし、患者、特に重度の精神的不安定状態にあるときに治療に同意した患者は、10年後、20年後、30年後、性器手術や両側乳房切除術についてどのように感じるでしょうか? ジェンダー肯定医療を提供する医療従事者はこの重要な質問を決してしないようですが、それにも関わらず自分たちが倫理的な医療を提供していると主張しています。 

 フォーラムに参加したバージニア州の女医は、持続的なジェンダー違和が存在する限り、双極性障害、自閉症、統合失調感情障害などの重度のメンタルヘルスの問題を抱える人も、膣形成術に同意することを許可されるべきであるという意見でした。「すべての外科的介入の前に、患者全員の問題が完璧にクリアできれば素晴らしいことですが、結局のところ、それはリスクとベネフィットの判断なのです」と言い、その女医は、重度の精神的不調を抱える患者が厳しいダイレーションのスケジュールを守れず、その結果、深刻な合併症に苦しむという可能性を切り捨てました。

 実際、すべてのファイルの中で、WPATHのメンバーが医療処置の潜在的な危険性と副作用について懸念を表明した唯一の例は、乳児に本当の意味で授乳するつもりはなく、純粋にそれを経験するためだけにホルモン誘発性乳汁分泌に関心のあるトランス自認の生得的男性との会話だけでした。提供された情報によると、患者はそれ以外は精神的に健康であるように見えますが、主治医は、リスクがないわけではないため、この要求には倫理的な問題があると説明しました。 

 生得的男性による授乳の可否に対して、複数の医師が懸念を示し、ある医師はこの要求は「不必要な医学的介入」であるため、非倫理的であると述べました。またサンフランシスコの倫理学者は、介入の理由を「疑問視する」と述べました。倫理学者は医師に、医師とは「社会が一定の特定の特権を与えた」専門家で、 医師が貴重な資源を使えるのは「医療の利益がリスクを上回ることと、『少なくとも害を及ぼさない』場合」だということを強調しました。

 「女性らしさの一部として乳汁分泌を経験したいという患者の願望は理解できます」と倫理学者は続けました。「しかし、私の考えでは、それは医学的に介入する理由としては不十分です」この医療倫理の専門家には、フォーラム内のすべての投稿にコメントする義務はありませんが、重度の精神疾患を持つ人に膣形成術への同意を認めることに関する議論や、ノンバイナリーを自認する人のための第2の性器の作成に関するスレッドに彼女が登場しないことは示唆的です。WPATHの外科医に「まず害を及ぼさない」とヒポクラテスの誓いを説くことはないのです。また、未成年者を生涯オーガズムが得られないようにする劇烈なホルモン治療についても、メッセージスレッドでコメントしていません。WPATHの医師に、利益がリスクを上回らなければならないことを説くこともしません。それに比べれば、ただ経験したいがために乳汁分泌を誘発したいという男性の要求は些細なことです。

 注目すべきは、議論に参加しているWPATHのメンバー全員が、患者の動機に関する不快な真実を口にするのを避けていることです。フォーラムの議論に上がっている男性は、オートガイネフィリアの定義に当てはまるかもしれません。つまり、彼の乳汁分泌への欲求はエロティックな目的だったのかもしれません。

 乳汁分泌を誘発するために薬物を使いたいという生得的男性についての議論と、ノンバイナリーを自認しテストステロンの服用を始めたいと願う13歳の少女についての議論とで、メンバーが話している内容を比較してみてください。彼女のセラピストは、13歳というのは若すぎるのではないかと心配し、「合併症の可能性」についても言及しました。 それは、「よりノンバイナリーな外見にするために、意図的な食事制限をして栄養失調になりかねない」というものでした。

 しかし小児内分泌科医は、苦しんでいるティーンエイジャーにこのような強力なホルモンを投与開始する前に摂食障害や一般的なメンタルヘルスの問題に対処することを推奨したり、明らかに問題を抱えた少女にテストステロンの不可逆的な影響に同意することを許すことの倫理性に疑問を投げかけたりする代わりに、セラピストに対して、WPATHが最新のSOC(ケア基準)で最低年齢要件をすべて削除したことを伝えました。その後、テキサス州の保健センターの最高医療責任者は、患者が「月経期間と完全な乳房の発達」が目前なので、「ジェンダー肯定医療を待てば自殺率を高める」と警告しました。医療倫理の専門家が、議論に参加していないのは明らかです。

192)  #dissociativeidentitydisorder. (2024). TikTok. https://www.tiktok.com/tag/dissociativeidentitydisorder?lang=en

193)  Not plural-phobic: USPATH psychiatrist promotes transition for multiple personalities. (2017). 4thWaveNow. https://4thwavenow.com/2017/12/29/not-plural-phobic-uspath-psychiatrist-promotes-transition-for-multiple-personalities/

194)  Wolf-Gould, C., Flynn, S., McKie, S. (2022, September 16-20). An Exploration of Transgender and Plural Experiences [Conference presentation].

著作権 Environmental Progress

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・著作者:The WPATH Files — Environmental Progress

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