ジェンダー医療研究会:JEGMA

ジェンダー医療研究会は、 ジェンダー肯定医療に関して、エビデンスに基づいた情報を発信します。

多様なジェンダーの若者への治療

北米とヨーロッパの間の亀裂の拡大

歴史的に、希望する性別の外見を得るための医学的介入は、主に長い違和(dysphoria)の履歴を持つ成人に限られていました。このような介入には、徹底的な心理的評価を含む、患者との長期間にわたる関わりが先行しました。成人のジェンダー移行者の集団レベルの客観的データでは、メンタルヘルス上の苦悩は持続し、死亡率や罹患率が急激に上昇する一方、主観的な患者報告による転帰では、後悔の割合は低いことが示唆されています。残念ながら、「後悔 」研究では、移行した患者の20〜60%と連絡が取れないことが日常茶飯事であり、追跡調査から漏れた相当数の患者について答えのない疑問が残ります。「後悔」の研究には他にも重大な制限があります。しかし、有益性、有害性、不確実性のバランスについて十分な情報を得た上で決断した成人の移行者の多くが、実りある人生を送っていることを疑う理由はほとんどありません。

しかし、2010年代頃、特にジェンダー違和の若者にとって、ジェンダー違和の管理へのアプローチに著しい変化がありました。

西ヨーロッパ、北米、オーストラリアの多くの国が、若者のケアの「ジェンダー肯定(gender-affirmative)」モデルを推進し始めました。このケアモデルでは、ジェンダー違和を訴えたり、トランスジェンダーのアイデンティティを主張したりする若者は、ジェンダー移行を受けたいという願望を肯定され、「バリアフリー」のホルモンおよび外科的介入が提供されます。

メンタルヘルスの専門家が関与することも多いが、その役割は通常、若者の性別移行への準備に限定され、合併している精神衛生上の問題や、患者がトランスジェンダーであることを自覚したのが比較的最近のことであるかどうかは考慮されません。

そのため、現在では医療的介入は心理学的評価を大幅に減らして行われています。

過去36ヶ月で、ますます多くの西洋諸国が「ジェンダー肯定ケアモデル」に対する重大な懸念を認識しています。これは、ジェンダー違和の若者の新規集団から発生した脱トランス者や後悔する者の声が高まっているため、可視化されるようになりました。若者の移行のリスクと利益の比率が不確実なものから好ましくないものまでの範囲であることを示したエビデンスの体系的なレビュー(審査)を完了した後、これらの国は、心理社会的介入を最初に行うべきとするアプローチを支持し、「ジェンダー肯定」の実践を廃止し始めています。それらの国においては、最初に心理社会的介入を行うアプローチ法が、ほとんどの未成年者が利用できる唯一の治療法となっています。

現在の執筆時点(2023年10月)で、以下の国は、以前の「ジェンダー肯定」の実践を急激に逆転させたか、近い将来にそうする意向を示しています。

  • スウェーデンは、もはや研究環境以外の未成年者へのジェンダー移行を提供しないことを決定し、その適応を「古典的」とされる幼児期発症のジェンダー違和に制限しました。他のすべての人は、出生時の性別における思春期を受け入れて成長することに焦点を当て、心理社会的支援と心理療法で治療されます。
  • フィンランドは、ジェンダー移行の適応を古典的な幼児期発症のジェンダー違和とメンタルヘルス併存疾患のない未成年者に厳しく制限しており、心理療法が治療の第一選択であるべきだと述べました。
  • 2023年夏に発行されたイングランドの暫定臨床政策では、二次性徴抑制剤(思春期ブロッカー)は実験環境でのみ利用可能であると述べています。NHS(国民保健サービス)はまた、小児期に発症したジェンダー違和を持つ人だけが、今後の2024年の試験に参加する資格があることを示唆しています(試験の適格基準はまだ完全に明確化されていません)。異性化ホルモンに関する決定はまだ保留中です。イングランドのNHSによるこれらの決定は、ヒラリー・キャス博士の中間報告書(the Cass Review)からの勧告に従ったものです。最終的なキャス博士の報告書は2023年後半に発表される予定です。
  • デンマークは二次性徴抑制剤と異性化ホルモンの適応を制限しており、現在は紹介された若者のうちわずか6%だけがジェンダー移行を行なっています。その適応となるのは古典的な「オランダ」プレゼンテーションに一致する患者だけです。(ジェンダー違和が幼児期発症であり思春期に激化、かつ他の精神疾患を合併していない)

この実臨床における変更は、今年後半に更新される治療ガイドラインの変更に先立つものです。

  • ノルウェーの医療調査委員会(NHIB/UKOM)は、二次性徴抑制剤、異性化ホルモン、子どもと若者のための手術を実験的とみなし、現在の「ジェンダー肯定的な」ガイドラインはエビデンスベースではなく、改訂する必要があると判断しました。ノルウェーの公衆衛生当局は、現在の治療ガイドラインの調整でUKOMの懸念に対応する意向を示しています。

他の国では、議論が高まっています。

  • ドイツ医師会の公式ジャーナルは、若者のジェンダー移行における論争に関する記事を発表し、「これらの治療法が有害性よりも利益の方が大きいという科学的エビデンスは、これまで長い間宣言されていたほど確固たるものではない」と述べました。この記事では、エビデンスの欠陥について議論し、若者のジェンダー移行の実践を最初に実施した国々が「撤回している」と指摘し、ドイツの政策への影響について疑問を提起しました。
  • フランスの国立医学アカデミーは、未成年者の「ジェンダー肯定」に関する新たな問題に対処するための作業が進行中であることを示唆しています。
  • ベルギーのコクラン・ベルギーのディレクターは、二次性徴抑制剤が実験的であり、WPATH(世界トランスジェンダーヘルス専門家協会)によって公布された治療ガイドラインがエビデンスに基づいていないという国民の懸念を表明しています。しかし、ベルギーの保健当局がこれらの懸念に対して行動する予定があるかどうかは明らかではありません。
  • ロイヤル・オーストラリア・ニュージーランド精神科医大学(RANZCP)は、「トランスジェンダーの子どもの治療に関連して肯定的なアプローチを取るべきか、または他のアプローチがより適切であるかどうかについて、エビデンスや専門家達の意見が分かれている」と認めました。*

その間、北米では

  • フロリダ州は、公衆衛生当局が18歳未満の若者の医療移行を許可しない最初の州になりました(ただし既存の症例については「適用除外」)。
  • さらに、多くの個々の州が未成年者のジェンダー再割り当てを禁止する法律を可決し始めており、これは論争の的であることが証明されています。
  • 連邦レベルでは、米国は「ジェンダー肯定」ケアが安全で効果的であると主張し続けています。
  • 内分泌学会の会長は最近、未成年者のジェンダー移行は証明されたエビデンスに基づいた医療行為であると主張しました。ジェンダー違和を抱えた若者の治療と結果の評価に携わる著名な臨床医達からの手紙は、そのような評価に著しく反対し、医学会に「利益を誇張しリスクを最小限に評価するのではなく、入手可能な最善のエビデンスに沿った勧告を行う」よう求めました。
  • 直近では、米国小児科学会(AAP)がようやく、独立したエビデンスのレビューを実施してガイダンスをアップデートする時期であることを認めましたが、レビューの結論はすでに予言されており、それは現在の「ジェンダー肯定」賛成派であるAAPの立場を支持するというものです。これはエビデンスに関する複数の系統的レビューにおいて、未成年者に対するジェンダー移行の利益は非常に不確実である一方、リスクは重大になりうるという研究結果がでていた事と矛盾します。具体的には、内分泌学会のジェンダー違和を抱えた若者に対する治療ガイドラインに従えば、未成年者が将来不妊になる可能性が高いです。その他の健康リスクとしては、骨の健康状態の悪化、脳の発達の変化、心血管系の合併症、その他多くの未知のリスクが含まれます。

* 更新(2023年10月25日)。RANZCPに関連する要約は、その立場をより正確に反映するために更新されました。


上記、SEGMサイトのトップページ(https://segm.org/)の"Treatment of Gender-Diverse Youth:A growing chasm between North America and Europe "(ジェンダー多様な若者への治療:北米とヨーロッパの間の亀裂の拡大)より抜粋し翻訳しました。

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