ジェンダー医療研究会:JEGMA

ジェンダー医療研究会は、 ジェンダー肯定医療に関して、エビデンスに基づいた情報を発信します。

ジェンダー違和(性別違和)のある思春期の若者におけるテストステロン治療中の身体的変化 検査パラメータ および 骨密度

C-1-006

原文

Stoffers, I. E., de Vries, M. C., & Hannema, S. E. (2019).
Physical changes, laboratory parameters, and bone mineral density during testosterone treatment in adolescents with gender dysphoria.
The Journal of Sexual Medicine, 16(9), 1459–1468.
https://doi.org/10.1016/j.jsxm.2019.06.014

抄録

序論

ジェンダー違和(性別違和:gender dysphoria )のある思春期の若者に対する現在の治療ガイドラインでは、トランスジェンダー男性にはゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト(GnRHa)とテストステロンによる治療が推奨されている。しかし、テストステロンの安全性と有効性に関するほとんどのエビデンスは成人における研究に基づいている。

目的

本研究の目的は、トランスジェンダーの若者におけるテストステロン治療の有効性と安全性を調査することである。

方法

本研究では、ジェンダー違和と診断され、GnRHa治療を開始し、その後6ヵ月以上テストステロン治療を受けた62人の若者を対象とした。

主要評価項目

第二次性徴の表現としての男性化、人体計測法、検査パラメータ、および骨密度(BMD)を解析した。

結果

思春期の若者はテストステロンによる治療を中央値で12ヵ月間受けた。85%の思春期の若者で3ヵ月以内に声の低音化が始まった。発毛の増加はまず四肢で報告され、次いで顔面毛の増加が報告された。にきびはテストステロン療法開始後6ヵ月から12ヵ月の間に最も多くみられた。ほとんどの思春期の若者はすでに身長の成長を終えており、肥満度と収縮期血圧は上昇したが、拡張期血圧は変化しなかった。高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールと性ホルモン結合グロブリンは著しく減少したが、ヘマトクリット、ヘモグロビン、プロラクチン、アンドロステンジオン、硫酸デヒドロエピアンドロステロンが著しく増加した。その他の脂質とHbA1cは変化しなかった。ビタミンD欠乏症は治療期間を通じて32〜54%にみられた。テストステロン治療12~24ヵ月後のBMD zスコアは、GnRHa治療開始前のzスコアを下回ったままであった。

臨床的意義

若者には、ヘマトクリット値の上昇、HDLコレステロールの低下、BMD zスコアの低下など、長期的な影響を及ぼす可能性のある副作用についてカウンセリングを行う必要がある。心血管系疾患および骨粗鬆症のさらなる危険因子を避けるために、十分なカルシウムおよびビタミンDの摂取を含む食事、身体運動、タバコおよびアルコールの使用について助言する必要がある。

長所と限界

長所は、標準化された治療レジメン、広範な安全性パラメータが調査されたことである。限界は、追跡期間が限られていることと対照群がないことであり、観察された変化の一部は治療によるものではなく正常な成熟によるものとの可能性も否定できない。

結論

テストステロンは、大多数の若者において、3ヵ月以内に男性化を効果的に誘発した。にきびは一般的な副作用であったが、短期的な安全性の問題は観察されなかった。ヘマトクリットの上昇、HDLコレステロールの低下、BMDのzスコアの低下は、以前の研究と一致している。観察された変化が長期的に有害な影響をもたらすかどうかについては、さらなる追跡調査が必要である。

Stoffers IE、de Vries MC、Hannema SE
Physical Changes, Laboratory Parameters, and Bone Mineral Density During Testosterone Treatment in Adolescents with Gender Dysphoria.
ジェンダー違和(性別違和)のある思春期の若者におけるテストステロン治療中の身体的変化、検査パラメータ、および骨密度
J Sex Med 2019;16:1459-1468.

SEGMによる解説

この後ろ向き非対照研究では、GnRHアゴニストによる二次性徴抑制後のジェンダー違和の女性被験者62人を対象に、テストステロン投与による代謝および骨への影響を調査した。 6ヵ月および12ヵ月のテストステロン投与後、BMAD zスコアはGnRHアゴニスト投与開始前に観察された値を下回ったままであった。さらに、テストステロン投与により、HDLコレステロールは顕著に低下し、Hctは上昇した。ほとんどの被験者は、テストステロンを開始する前に身長の成長を完了していた。ビタミンD欠乏症は、試験期間を通じて被験者の32~54%にみられた。

少なくとも6ヵ月間GnRHアゴニストを投与されたジェンダー違和の女性では、テストステロン投与開始後12ヵ月経っても骨密度の低下は改善されなかった。