ジェンダー医療研究会:JEGMA

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キャス博士の報告書:要約と推奨事項 - p.20~


要約と推奨事項

.このレビューの目的は、自分のジェンダーアイデンティティに疑問を抱いている、またはジェンダー違和を経験している児童や若者が高水準の医療を受けられるようにするための推奨事項を作成することです。彼らのニーズに適合する医療は、安全で、ホリスティック(全人的)で効果的でなければなりません。その中心にいるのは、弱い立場の児童や若者であり、NHS(英国国民保険サービス)はその需要に対応できていません。

2. しかし、レビューは当初から、十分な証拠に裏付けられていないにも関わらず、大きく異なる強固な意見がある分野に足を踏み入れました。周囲のノイズは有害なほど大きく、イデオロギーに凝り固まった、二極化した公衆の議論は、レビューの作業を著しく困難にしました。それらは、すでにマイノリティ・ストレスにさらされている児童や若者には、何の役にも立ちません。

3. この文脈の中で、レビューは、紹介される患者の増加とエピオデミオロジー(疫学)の変化の理由を理解し、この集団に最も役立つ臨床アプローチとサービスモデルを策定することに着手しました。

4. 臨床的アプローチについては相反する見解があり、予想される事例は通常の臨床診療とはかけ離れている場合があります。このため、一部の臨床医は、他のNHSサービスで扱う多くの児童や若者と症状が似ているにもかかわらず、ジェンダーに疑問を抱く若者を診療することを恐れています。

5. 臨床的アプローチは社会正義モデルに基づくべきだと考える人もいますが、NHSの方針はエビデンスに基づいたものです。この「カルチャー・ウォー(文化戦争)」に巻き込まれないよう苦労して進みながら、 当レビューはそれぞれの考え方を裏付ける証拠の必要性をより切実に認識していき、最終的にはこの報告書でなされた推奨事項に至りました。

6. レビュー開始時点ですでに、特に二次性徴抑制剤(思春期ブロッカー)の使用と男性化/女性化ホルモンの使用に関するエビデンス基盤は、脆弱なことがわかっていました。 昔も今も、ネット上では簡単にアクセスできる誤った情報が数多くあり、対立する議論の双方が、研究の質を問わずに、自分たちの立場を正当化するために、それらの研究を使っています。

7. したがって、児童や若者を支援する最善の方法を理解するために、本レビューの目標は、既存のエビデンスを理解するだけでなく、若者、その家族、介護者、そして彼らと一緒に働く臨床医が正しい決定を下すための最良の情報を得られるように、エビデンス基盤を改善することです。

8. 既存のエビデンスを精査するために、当レビューはヨーク大学に、徹底的なまた独立したエビデンス・レビューと研究プログラムを依頼し、その結果としての推奨事項を受け取りました。報告を待っている間も新しい研究結果にも目を配り、また大学から推奨事項を受け取ったのちも、それを慎重に検討しました。

9. ヨーク大学の研究プログラムは、この分野では質の高いエビデンスが依然として不足していることを示しており、残念なことに、詳細はこの報告書で明らかにされますが、エビデンス基盤を改善する試みは、成人のジェンダーサービスからの協力の拒絶により、行き詰りました。

10. それゆえに、レビューは、現在入手可能な証拠に基づいて勧告を行うために、独自の広範な研究プログラムで補完する必要がありました。

11.  生きた経験を持つ人々や臨床医から直接話を聞くことで、医療サービスが現在どのように提供され、受容されているかについて貴重な洞察が得られました。トランスジェンダーや多様なジェンダーの人として生きる肯定的な経験が聞けたことと同時に、児童、若者、その家族や介護者、そして彼らを支援しようとするサービスやその周辺で働く人々が直面する、問題の不確実さや複雑さ、また課題について得られた知見が、本レビューの理解に貢献しています。

12. このレポートは、次の5つのパートで構成されています。

  • パート1:アプローチでは、実施された作業に対するレビューのアプローチについて説明します。
  • パート2:コンテキストは、ジェンダー違和児童や若者のための医療サービスの歴史を探り、人口動態の変化と患者の紹介率の上昇を主に取り上げます
  • パート3: 患者コホートの理解では、ジェンダー不合ゆえにNHSの支援を求めている児童や若者の特徴について学んだことを示し、紹介の増加と症例構成の変化の原因となっている可能性のあるものを検討します。
  • パート4:臨床的アプローチと臨床管理では、児童や若者の人生を助けるために何をすべきか、つまり、ホルモンの使用や複雑な症状のサポート方法など、治療経路における臨床的介入の目的、期待される利益、結果について考察します
  • パート5:サービスモデルでは、ジェンダー医療サービス提供モデル、労働力要件、この専門的医療への治療経路、エビデンス基盤のさらなる開発、および継続的な臨床改善と研究を組み込む方法を検討します。

13. このレビューの最後には、まだ不確実性がありますが、以下のことは事実だと言えます。

  • 児童や若者、家族や介護者は皆、それぞれの状況を理解しようとしており、多くの場合、大きな課題や激変に直面しています。
  • ジェンダー医療サービスにアクセスするための待機リストの長さは、このグループの人数とNHSサービスの提供現状を示しています
  • ジェンダーアイデンティティに疑問を持つまたジェンダー違和を経験する児童や若者を、一般化することは無益です。人はそれぞれ違います
  • 若者のアイデンティティの感覚は必ずしも固定されたものではなく、時間の経過とともに変化する可能性があります。ジェンダーアイデンティティにヒエラルキーはありません。社会的にも医学的にも、どのような名称を与えられようが、上下はないのです。誰も、自分の経験するアイデンティティが他のアイデンティティや選択に悪影響を与えることを恐れて、自分の経験を取るに足らないものと感じるべきではありません。
  • できるだけ早くトランスしたいと感じる若者もいるかもしれませんが、若い頃の自分を振り返る若年成人は、スローダウンすることを勧めることがよくあります。
  • ある人にとっては、トランスすることが最良の結果かもしれない。また、他の方法で苦痛を解決する人もいます。移行した後に、トランスする人再度トランスしたりする人もいれば、それらの経験を後悔したり、後悔しなかったりする人がいます。NHSはそれらすべての支援を求める人をケアしなければいけません。
  • この集団への医療は、ホリスティック(全人的)かつパーソナル(個人的なものでなければなりません。それは幅広い介入とサービスで構成されている場合があり、そのうちのいくつかはNHSの専門家医療サービス以外で提供することができます。
  • こうした児童や若者をどう扱うのが最善かについては、依然として意見の相違がありますエビデンスは脆弱で、臨床医は、どの児童や若者が永続的なトランスジェンダーのアイデンティティを持つようになるかを確実に判断することはできないと語っています。
  • 多くのプライマリーケアおよびセカンダリーケアの臨床医は、この集団を扱う能力と技量について懸念を抱いており、周囲の社会的議論を考えると、そうすることを恐れている人もいます。
  • ホルモン介入の長期的な健康への影響に関する現在の理解は限定的で、よりよく理解する必要があります。
  • 若者は、成人向けサービスへの移行時に特にヴァルナラブル(傷つきやすく)になります。 

14. ジェンダーアイデンティティに関するあなたの見解が何であれ、ジェンダー関連の苦痛のためにNHSからの支援を求める児童や若者の数が増えていることは否定できません。彼らは、他の病気で苦痛を経験している児童や若者と、同じ質の医療ケアを受けるべきです。

15. 共感力と優しさを備えた社会は、メディアの大見出しの背後に、血の通った児童、若者、家族、介護者、臨床医がいることを知っています。 NHSに助けを求めている個々の児童や若者は、成長していくために必要なサポートを受けるべきだと、このレビューは信じています。

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Cass Review
Independent Review of Gender Identity Services for Children and Young People
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